2012年12月29日土曜日

【第130回】『文明の生態史観』(梅棹忠夫、中央公論社、1974年)


 本書を通読するのは二度目である。はじめて読んだのは大学二年の時に授業の課題としてであったから、実に十二年ぶりである。再読することはよくあるが、これだけ長い期間を置いて読み直すのは珍しい。あまりに内容を忘れていて驚いたのではあるが、読み直して良かったと思える一冊である。

 文明論において、進化史観に対して生態史観という考え方を新たに提示したことが本書の画期的な点であろう。従来の進化史観では、歴史とは一つの目的地へと向けた一直線のように考えていた。本書の元となる論考を著者が発表していた時代背景を鑑みれば、その典型として著者がイメージしていたものはマルクス主義であろう。

 運命論的な意味合いを有する進化史観に対して、生態史観では多様な目的地があることが当たり前のものとして許容される。ある地点への必然的な一本道としての進化という進化史観の発想とは異なり、主体と環境との相互作用が変化の基本となる。相互作用の蓄積の結果として従前の生活様式では収まらなくなった時点で次の様式に遷移する、という主体と環境系の自己運動モデルが生態史観のアイディアの源泉である。

 こうした考え方をもとにして、著者はユーラシア大陸を二つの地域に大別してそれぞれの特徴を述べている。第一地域が属するのは、大陸の最西端と最東端、すなわち西ヨーロッパと日本である。第二地域はそれ以外の地域であり、東は中国から西はトルコ辺りまである。

 それぞれの地域を分けるいくつかの特徴について、著者の著述をもとにまとめてみよう。

 一つめの点として、近代へと至る政治的革命の以前の政治体制として封建制を持っていたかどうかという点である。第一地域では封建制を持っていたが故に、ブルジョワジーによる革命が可能となり、その結果として革命後の政権をブルジョワジーが担うことになった。それに対して第二地域ではいずれも安定的な封建制を持っていたことがないという共通項がある。その結果として、専制君主による支配、とりわけ植民地支配という形式が取られた点が特徴的である。

 二つめに、聖と俗の権力の分離についての差異が挙げられている。第一地域では聖の権力と俗の権力の分離が早い段階で起こった。近代国民国家の前提とも言われる政教分離である。他方で第ニ地域では精神界の支配者と俗界の支配者とが後世まで続いており、現在でも続いている国が少なくない。

 三番目の点として、政治的実践に携わる知識人の有無の差がある。第一地域には、政治的実践に携わらない、すなわち政権や行政に関与しない「在野」の知識人が豊富にいる。そうした知識人の一部がマスメディアのメンバーを構成することで批評的な知識人が表れることとなる。一方、第二地域では政治的意識と政治的実践とが統一的に両立している。その極端なケースとしては行政にとって不都合な事実や主張を述べようとする人物を弾圧しようとする。知識をコントロールしようとするメカニズムが生じるのである。

 第一地域と第二地域の間には東ヨーロッパと東南アジアが存在する。第一次大戦は東ヨーロッパを、第二次大戦は東南アジアを、それぞれ植民地支配から解放したという側面があるという著者の考え方には留意する必要がある。こうした考え方は、解放することを正義とみなして戦争へと駆り立てる危険な考え方にも繋がり得るので利用される文脈に注意する必要はあるが、一考の余地はあるだろう。

2012年12月22日土曜日

【第129回】“HPI essentials”, George M. Piskurich, ASTD Press


HPI (Human Performance Improvement) is result-based approach. Say, it doesn’t always seek to satisfy customers’ wants and needs. This is what HPI is different from other approaches about learning and development. The point is that HPI focuses on business accomplishments in any work places. So all the L&D sections can have the role of accomplishing business result directly through changing their approach into HPI.

To do so, we have to analyze our business through having discussion with our customers. After we identify important goals for the business unit, we can determine the appropriate measurement. According to this book, there are three stages of the business analysis. 

Stage 1 is Entry. Though some customers want to jump immediately to solutions, we should make conversation back to the strategic priorities of the client, and hear all the things related to customers’ business. After Stage 1 is done, there are many concerns in front of us. At Stage 2, we have to collect the right data to focus on appropriate business goals. But you shouldn’t fix it by yourself. As Stage 3 is named Agreement, you’ll have to evaluate the results of your previous work, and you and the customer should share a common sense of priorities and direction.

Through launching action items, we collaborate many sections and customers, because it is not a training but a business itself. So we have to care motivational factors of all the customers in order for them to be more motivated and to have commitment. Understanding various types of motivation helps us to select, design, and implement the best type of motivation to achieve different goals.

Our last and biggest concern is about evaluation of our action. Of course evaluation data is needed to validate our HPI work. But, adding this point, it is also important to gain support and cooperation for implementing HPI. Because there are too many factors related to business result and the process of it is very complicated, so we can’t say HPI approach is the most important thing to accomplish great success.

2012年12月15日土曜日

【第128回】『インテグラル・シンキング』(鈴木規夫、コスモス・ライブラリー、2011年)


 インテグラル理論とはケン=ウィルバーが提唱する理論であり、複雑であり射程範囲が包括的であるために一筋縄では理解することが難しい。本書はその解説を試みる書籍であり、この理論を端的に「相互に関連性のないものとしてバラバラに存在している多種多様な情報を有機的につなぎ合わせるための枠組み」と定義している。

 包括的に世の中を理解する枠組みであるということは、「あまりにもあたりまえのことを意識的にかつ効果的にできるようにするための道具」ということである。すなわち、自然のこととして認識しているものを浮かび上がらせ、思考の枠組みの多様性を理解した上で枠組みを主体的に選択することができるようになることが最大のメリットであろう。

 インテグラル理論によれば、世の中の把握のしかたとして二つの軸の組み合わせにより四つの領域があるという。横軸は内面と外面による区別であり、縦軸は個と集合に基づく分類である。

 左上の領域である個の内面とは、問題や課題に取り組んでいる関係者一人一人の主観領域である。この領域を直接的に経験しているのは自分一人だけであり、他者からは観察することができない。したがって、自分自身の思考・感情・感覚・直感を重要な情報として明らかにしていくことが個人にとって有用となろう。

 ただし、個の内面の領域が過剰になると、第一に精神主義に陥るリスクがあり、その結果として崇高な価値観に基づくものであれば結果に対して無責任になる懸念がある。第二に、理想を高く持ちすぎてしまうことで現実のありのままの自分を許容できない潔癖主義に陥り、自分で自分を苦しめる懸念があることには留意したい。

 次に、左下領域として挙げられている集団の内面は、関係者が共有している空気や風土や文化の領域を指す。異なる価値観を持つ一人ひとりに共通した方向性をもたらすものであり、いわば関係者を共同体として結びつけるものである。

 しかし、それは呪縛するものでもあることに注意を向ける必要があるだろう。 山本七平さんの分析を俟つまでもなく、太平洋戦争期の日本における「空気の支配」は最悪なかたちでのその顕在化である。また、ポストモダン思想を誤読してしまい真実など何も世界には存在しないという虚無主義に至りかねない価値相対主義の危険性にも目を向けるべきであろう。

 右上領域である個の外面とは、関係者一人ひとりの客観的な領域のことを指す。自身の具体的な行動を分析するといった客観的な視点を通して、自己を観察することができる領域である。

 この領域が過剰になる場合のリスクとしてもやはり二つ挙げられている。一つめの能力主義・成果主義については、著者の見解は「結果主義」批判にほかならずプロセスを評価する本来的な成果主義に対する理解が浅いきらいがある。したがって、多くの日本企業における人事制度への反論というように射程を絞って理解する必要があることには注意をされたい。また、効率的な鍛錬ばかりにいそしみ、人間の思考や感情を成功・幸福を実現するための道具や資源としてのみ捉えてしまうという過剰な上昇志向という懸念も大きい。

 最後に、集合の外面という右下の領域は、共同体を客観的に観察できるものである。企業で言えばヒト・モノ・カネといったリソースの分析が該当し、私たちが五感で把握できる領域である。

 この領域に傾注しすぎるリスクとしては、集団の移行に過剰に合わせようとしてしまい自身の創意工夫が為されない適応主義が挙げられる。また、新しいインフラや制度がそれを使う人間自体の感情や価値観や思考を縛るという人間疎外を伴う制度改革の絶対化も懸念される。

 では、こうした四つの領域をどのように統合的にバランスさせることができるのか。著者によれば、次の四つの段階があるという。

 第一段階としては一つの視座を強化することである。ここでは、型を地道に実践し続けることで微妙な変化を蓄積させ、その結果として長期的な変化を生み出すことが課題となる。第一段階で一つの視座を強化した後の第二段階としては、複数の視座を使えるようになることが目標となる。ここでは、一人だけではなく複数の師を持ち、ときに相反する助言をどのように自身の中で昇華させて一歩を踏み出すかが鍵となるだろう。

 第二段階を通じて得られた複数の視座を自分自身のものと体内化するために、第三段階では実践が求められる。実践を行い仮説検証を回し続けることで、それぞれの視座を利用できる文脈を多様にすることがここでは求められる。最後の第四段階では、自身のものとして使えるようになった「引き出し」を自由自在に活用できるようにするために高次の文脈を創造することが目標となる。その際に、統合的なバランスを取れている理想型としては、四つの領域の真ん中に位置するという状態ではないことに注意したい。そうではなく、極端な状態を必要に応じて選択的に行き来してそれぞれの真実を十全に体験することができる状態を目指すべきであろう。

2012年12月8日土曜日

【第127回】『MBB:「思い」のマネジメント』(一條和生+徳岡晃一郎+野中郁次郎、東洋経済新報社、2010年)


 「人に優しい会社」というような美辞麗句が企業経営では時折謳われる。こうしたスローガンに反対する人はいないであろうが、ではどのようにするのか、という具体的な質問に答えられる人もまた、極めて少ないだろう。本書は、経営学者がその問いに一つの回答を与えている良書である。

 人事的な観点から、とりわけ興味をおぼえた三つのポイントについて記していく。

 第一に、仕事の意味やキャリアに対する見解である。日常の業務は忙しい。その忙しさをITが軽減してくれると十数年前には信じられていたが、実際にはそれとは正反対の結果が待っていたようだ。忙しさが増す中で、私たちは目の前の仕事に日々汲々としがちであるが、それは健全ではないと著者たちは強く主張している。自分の仕事の意味や希望を見出していくということが必要なのである。

 それでは、こうした仕事への思いを持つためにはどのようにするか。本書はここまで議論をすすめている点が素晴らしい。具体的には、自分にとってどのような意味合いがあるのか、というキャリア上の目的意識を持つことであるとされている。さらに、キャリアゴールを静的に決め込んで逆算して粛々とアクション・アイテムをつぶしていくのではなく、フレキシブルな部分を残していつでも修正ができるようにしておく。そのような状況の中で、自身が突き詰めたい問題意識を持ち、知的な面での人脈の結節点を多く持ち、機会に対してオープンに対応する。窮屈な日常業務が多いからこそ、しなやかなオープンマインドがキャリアをすすめる機会を生み出すことに私たちは留意したいものだ。

 第二は、従来的なワークライフバランスへの疑問の提示である。ワークとライフを「バランス」させるというのは、時間的・物理的な面でのすみわけの発想である。本書では、ワークとライフについて自身の意識の時間配分の問題として捉える必要があると説く。ワークとライフとが渾然一体となって、自分が大事にしている思いに集中するというのが著者たちが提唱するMBB型のワークスタイルである。これはいわばワークライフインテグレーションと表現しても良いものであろう。

 こうした考え方は、なにも経営学者だけが主張しているものではない。古くは松下電器の創業者である松下幸之助の教えの中にも同じような趣旨の発現が見受けられる。彼は『指導者の条件』の中で「心を遊ばせない」と説いた。身体を休めることは大事であるが、心まで休めることは良くない、というのである。ワークとライフを自分の思いによってインテグレートさせる、まさに現代のプロフェッショナルに通底する至言であろう。

 こうした考え方を受けて、人事の役割がどのように変わるべきであるか、というのが第三のポイントである。社外のプロフェッショナルやIC(Independent Contractor)の市民権が確立された現代においては、社内の社員どうしだけではなく、社外の知的リソースとのヒューマン・ネットワークの構築とメンテナンスが重要である。社外に開かれた組織であればこそ、内と外との区別に捉われずに社会の共通善が生まれる、という知識創造の第一人者である野中先生の言葉は重たい。これを旗振り役で人事自らが体現することが最初の一歩であろう。

 さらには、上記のような取り組みも含めて、MBBの施策を全部門で一斉導入することにこだわらないことも重要だという。そうではなくて、必要な施策がなじむ部門から先陣を切って導入することで、社内のベストプラクティスを創っていく。その結果として、次第にそうしたプラクティスをヨコ展開させていくための絶え間ざる手入れを加えていくことが人事に求められる行動であろう。

2012年12月1日土曜日

【第126回】“The Inventurers (third edition)”, Janet Hagberg / Richard Leider


This is NOT a book which we only to read, but a workbook which we have discussion through. It is useful for us to make a team or partnership whose purpose is to read this book and complete all discussion themes.

Actually I made team with my old friend and held some workshops by ourselves. Before we have a meeting, we read and answered all the questions in some chapters.

We held our own workshop at some caffe and restaurants having hot discussion. Though we tend to be afraid of talking about our topic about own career and life, we didn’t care about it in these workshops. When we don’t want to talk it loud, we used English! Because this book was written in English and we answered in English too, it was natural for us to have conversation in English.

There are many exciting and interesting questions in this book. Why don’t you asking and answering yourself at first, and have discussion with your friends or life partners. For me, the most impressive question was below;

“What was the most important question you were asking yourself ten years ago and what is the most important question you are asking yourself now?”

This question made me reflect my experiences deeply, and also contemplate and imagine the future.

Except for questions, there are three topics which I was really interested in. 

First topic is about “inside out”. According to authors, “The irony of the situation is that until you look within and develop your own personal lifestyle, you won’t be the kind of person who would attract the kind of person you want anyway. It’s all got to start from the inside out.”  So, first of all, if we want to be an inventurer, the people who seek to develop ourselves with fulfillment, we have to develop our internal factors, not focusing on the external ones. After doing it, our external factors will be changed dramatically.

Second topic is about learning style. Authors say that “Flexibility, or the ability to use many styles of learning, depending on the situation, is a goal to strive for.” The more flexible learning style we have, the more career and life options we can choose. So, “knowing your most preferred style could make the process more enjoyable and productive.”

Third one is drawing exercise, yes, in this book, we have to draw a picture! It is an important assignment to do with using our right brain. For a future reader, I don’t want to reveal the secret of this assignment, but it made me exciting after drawing a picture, even though I had hesitated to draw a picture!