2012年4月22日日曜日

【第80回】『法律学習マニュアル[第3版]』(弥永真生、有斐閣、2009年)


 大学院で学ぶことの難しさの一つは、学び方をいかに学ぶか、という点にあるのではなかろうか。大学院にわざわざ進学するということは、研究する内容に対する興味・関心は当然あるだろう。しかし、内容への興味・関心だけで卒業できるのは学部の話であり、修士を取るためには研究内容を論文として正当化させる必要がある。学術的に正当な論文を執筆するためには、研究のプロセスである学び方や研究のしかたを押さえることが求められるが、これが難しい。少なくとも、初めて修士論文を書いた三年前の私にはそう思えた。

 この四月より、二十歳の頃から慣れ親しんできた組織行動論および人事論から労働法へと研究テーマを変えて二つ目の修士号を取得しようとしている。研究に対する基本的な態度やスキルには共通する部分が多いもので、特に先行研究への投入量がものを言う点は変わらない。入学前の約半年間、理論書と判例を何度となく読みこなせたのは、前回の轍を踏んだからであると得心している。しかし、具体的な研究内容はやはり学問領域が異なれば全く異なるものである。それは具体的には、最終的に書くことが求められる学術論文の要素が異なるからであり、そこからリバース・エンジニアリングすれば、研究手法の違いも自ずと明らかになるはずである。

 では、法学にはどういった研究プロセスが求められるのか。その答えの一つが、本書に書かれている。

 まず、経営学と共通する点としては、論文を「芋づる式」に積み上げていく点である。具体的には参考文献や注で指摘されている文献を読み進め、テーマを掘り下げて理解するということである。

 その際には、研究するテーマについて、主要なテキストや体系書がどのように論じ、どこに争点があるのかを整理する必要がある。とりわけ法学においては、一つのテーマに対して複数の学説があることが通常であり、さらには判例と必ずしも一致しないため、どこが共通していてどこが異なるのかを整理する必要があるだろう。

 次に、経営学との最も大きな違いは、論文や学術書に加えて判例を加える必要があるということであろう。判例の原文はお世辞にも読み易いものではなく、本書でも外国語を学ぶような感覚で学べ、と書かれている通り大変な作業である。

 では、判例をどのように分析するか。

 第一に著者は、テーマに関する最高裁や大審院の裁判例を押さえ、必要に応じて下級審裁判例も収集せよ、という。第二に、個々の裁判例の前提になっている事実を踏まえ、要件と効果を明らかにし、その当てはめをどのように行なっているかを整理する必要がある。要は法的三段論法で判例を整理するということであろう。その上で第三に、年表のようなものを作成することで、それぞれの判例の関係性や、時代による変遷の経緯を明らかにするのである。

 と、あたかも分かったような気でここまで書いてきたが、「学ぶ方を学ぶ」ための書籍とは、自身の研究が進むたびに気づきの質と量が増えていくものである。研究の進捗とともに、折に触れて読んでいきたい一冊である。

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