2015年10月24日土曜日

【第504回】『オレたちバブル入行組』(池井戸潤、文藝春秋、2004年)

 いわゆる「半沢直樹」シリーズの一作目。数年前のドラマ版では、初回と最終回だけを観ることで感動を世間と共有することができた。飽きっぽい性格なのかドラマを毎週観ることはまずできないが、他方で、単純な性格なためにプロットが把握できれば最初と最後だけ観れば感動できる。

 テレビの時に感じたのは、企業を舞台にした勧善懲悪モノという印象であった。そうした印象は読後の今もあまり変らない。しかしそれに加えて、同期という存在のありがたさ、懲らしめられる側へのある種の共感、という二点が印象的であった。

 「夢を見続けるってのは、実は途轍もなく難しいことなんだよ。その難しさを知っている者だけが、夢を見続けることができる。そういうことなんじゃないのか」(316頁)

 半沢が、同期である渡真利に対して語る発言である。こうした熱い言葉を言い合える関係性というのは、通常の同僚や上司部下関係ではなかなか成立しないのではないか。しかし、同期という「同じ釜の飯を食った」間柄では、衒いもなく言える瞬間が時に訪れるように思う。そうした時に、私たちは、自分が今の状態で成し遂げたいこと、将来における夢といったものを、心の底から掬い取って言葉にできるのかもしれない。

 自分が大切にしていたプライドなど、いまやまったく意味もなく、根拠もない。こんなものを守ろうとあがいた挙げ句、抜けないほど深い泥沼に足を突っ込んでしまったではないか。情けなかった。そんな自分を呪いたくもなった。つまらないビデオを観たときのように、テープを巻き戻せるものならそうしたい。(231頁)

 半沢に懲らしめられる側である支店長のモノローグである。悪しきことを為す人にも理由がある。一つの失敗がさらに悪い結果を招き、どうしようもなくなった時に、それが自身の周囲の大切な存在にまで及んでしまうことを防ごうとして、組織や同僚に悪事を為す。悪とは相対的なものであり、二分法で善と悪とを切り分けて正義を振りかざすことの無意味さと危険性を考えさせられる。

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