2016年11月5日土曜日

【第641回】『職場学習論』(中原淳、東京大学出版会、2010年)

 企業における学習の研究者として著名な著者による初めての単著。今回で実に三度目であるが、改めて学びが深まった。個人での学習や、マネジャーに部下育成を委ねるのではなく、職場の多様な主体によって育成をどのように進めるかに焦点を当てたのが本書の特徴である。

 まず著者は、他者による学びの支援について、精神支援、内省支援、業務支援の三つに分けて述べている。その上で、上司、上位者、同僚・同期という三種類のアクターがどのように育成に関与するかについて、量と効果とでズレが生じているという興味深い指摘を行っている。

 業務支援を量の面で最も行っているのは上司であるが、最も効果が高いのは同僚・同期からである。反対に、精神支援を最も多く行っているのは同僚・同期であるが、最も効果が高いのは上司が行うものである。多様なアクターによって、育成を分担し、かつ情報を共有しながら行うことが求められるのである。

 では、そうした職場単位での多様な人々による学びを支えるものは何か。

 著者によれば、三つの支援を促進する要素として互酬性規範が挙げられている。お互いに支え合うという環境が、多様な主体による多様な支援を促進するということはイメージしやすい。さらに、互酬性規範の必要条件として、現場のマネジャーの振る舞いが挙げられていることも興味深いとともに、マネジャーにとって身が引き締まる思いがする内容であろう。


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