2018年4月1日日曜日

【第824回】『アオアシ』【第1巻〜第12巻】(小林有吾、小学館、2015年〜)


 JFA(日本サッカー協会)が興味深い取り組みをしていることを、目にしたり耳にすることが最近多い。直近ではJリーグチェアマンの村井満さんによる講演会の記事(https://coach.co.jp/lecture/20180201.html)が挙げられる。JFAは、「サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する。」という理念を謳い、ユースから一貫した人財育成を行っていることは有名だろう。

 本作品は、そのJユースに焦点が当てられたサッカー漫画である。スピード感があって物語が面白いのに加え、読みながら考えさせられる作品だ。

 何よりも言語化という言葉が至るところで表れることが特徴的だろう。経験を言語化することで主人公は成長し、言語によって意思を多様なチームメイトと共有することでチームが成熟していく。チームで言語を共有するためには、他者の意見を傾聴し、明確な指示出しを行い、時に厳しい意見のぶつけ合うことが求められる。

昇格生と同じ量の練習やってたんじゃ…何も考えないでサッカーやってた俺とあいつらの時間の差を、埋められねぇんだ。(37話)

 言語化するためには考えることが求められる。考え続けられるのは、その対象や過程が好きだからではないだろうか。好きだからこそ、そこで得られた言語を様々な文脈に活かそうと考える。好きこそ物の上手なれ、とはよく言ったものだと思う。多様な文脈や状況で応用することで抽象度は上がり、自分にとってしっくりとした表現になる。 

自分でつかんだ答えなら、一生忘れない。(38話)

 言語化をする主体は自分自身である。しかし、考え続けた結果として得られるものは、すべてを自身で行う必要はない。そこで求められるのがコーチングであろう。考えずに他者や書籍から得られた「答え」では意味がない。自分で考えて納得感のある言葉を紡ぎ出すことができれば、その思考や経験の過程における文脈が活きてくる。

 したがって、相手の意欲や能力によって関与の仕方は異なる。いわゆるティーチングが問題なのではなくて、他者の情況を捉えずに一つの育成方法に固執することが問題なのである。このように考えれば、コーチングという言葉をもっと柔軟に捉えるべきであろう。大事なことは、相手を観察してその情況を把握し、複数の選択肢の中から最適と思われる仮説を選び出し、間違っていたらすぐに修正することではないだろうか。

【第82回】『スラムダンク(全31巻)』(井上雄彦、集英社、1991年〜1996年)

0 件のコメント:

コメントを投稿