時代環境が変われば、モティベーションの源泉も変化する。著者は、その変遷を大きく三つに分類し、その源泉を情報技術におけるOSのアナロジーを用いて扉ベージで以下のように端的にまとめている。
モチベーション1・0:生存を目的とする人類最初のOS。
モチベーション2・0:アメとムチ=信賞必罰に基づく、与えられた動機づけによるOS。ルーチンワーク中心の時代には有効だったが、21世紀を迎えて機能不全に陥る。
モチベーション3・0:自分の内面から湧き出る「やる気!」に基づくOS。活気ある社会や組織をつくるための新しい「やる気!」の基本形。
内発的動機づけを研究していた身としては、著者の丹念な先行研究とその大胆かつ納得的なまとめに呻らさせられた。先行研究を編集する際には、自身の既存知識や仮説をまとめるために行うビジネス書が多いが、本書は、謙虚な先行研究を経てまとめ上げたことが窺える。だからこそ、シンプルでありながら深みのある提言となっているのであろう。
著者は、モチベーション3・0の主要な要素として、自律性、マスタリー(熟達)、目的を提言している。ハックマン=オールダムの職務特性モデルを学んでいた身として自律性が入っていることは違和感がなく、また目的の重要性はよく言われるものであり納得できた。
少し意外というか、新鮮な響きがあったのはマスタリー(熟達)である。チクセントミハイを用いながら説得的に述べられている。特に唸らさせられたのは以下の箇所である。
<モチベーション2・0>が従順な態度を求めていたのに対し、<モチベーション3・0>は積極的関与を求める。それだけがマスタリー、すなわち物事に熟達することを可能にする。マスタリーの追求は、その重要性にもかかわらず第三の動機づけのなかではあまり目立たないことも多いのだが、経済の発展においては必要不可欠となってきている。(161頁)
同一職務同一賃金という職務等級制度の流れを汲んだ考え方が日本企業においても述べられるようになってきている。しかし、ここでのマスタリーを考えれば、果たして企業が単純に同一職務同一賃金を志向して良いものなのであろうかと疑問に思えてくる。
職務に基づいた評価制度を用いながら、いかに個人のマスタリーを促し、個人にとっても組織にとっても有益な状態が生じることをサポートするか。私たちに求められている課題は大きなものである。
【第33回】DRIVE(Daniel H. Pink, Canongate Books Ltd, 2010)
【第54回】“FREE AGENT NATION”, D H. Pink, BUSINESS PLUS, 2002
【第145回】“To sell is human”, Daniel H. Pink
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