2018年10月7日日曜日

【第891回】『誰にもわかるハイデガー』(筒井康隆、河出書房新社、2018年)


 ハイデガーは難しい。否、正確には哲学者の書いたオリジナルの書籍は、サルトルも、フッサールも、フーコーも、私のような素人には難しい。だからこそ、本書のような優れた書き手による優れた解説書はありがたく、頭がさがる思いで読み進めた。

 本書ではハイデガーの代表的な著作の一冊である『存在と時間』についての解説が為されている。解説を書いている社会学者の大澤真幸氏も、「『存在と時間』の理解としてまことに正確である」(95頁)と太鼓判を押しているように安心して読み進めることができる。

 いつやってくるかわからない死を了解しようとして、人間は苦しんでいるんです。ですから、そういった死ぬという自分の存在を自分で引き受けて生きていく、その実存という存在のしかたですね。それが現存在です。(34頁)

 まず現存在というハイデガーが提唱する鍵概念について、生きるということと交えて解説が為せれる。尚、実存とは「人間の可能性」(35頁)と定義していることも併記しておく。

 では死とどのように向き合うのか。本来性の概念を用いながら著者は解説を以下のように試みている。

 本来性というのは死を見つめる、自分が生きているのに、いずれ死ななければならないのに生きているという苦しみ。その苦しみとか悲しさとかそういうものを生きていく上で、どれほどその生き方が苦悩や悲哀に満ちていてもそれを引き受けていくという生き方なんです。(43頁)

 自らの周りに起きる事象をプラスやマイナスで判断するのではなく、全てをありのままのものとして受け入れていくこと。これが生きる上での本来性であると著者は大胆に定義し、死から目を背けて対象を他に求める考え方を非本来性と定義して否定的に見ているのである。

 著者が述べるように本書はハイデガーに至るための入門書である。ハイデガーの著作にも改めて触れてみたいと思った。

【第419回】『今こそアーレントを読み直す』(仲正昌樹、講談社、2009年)

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