第2部の中盤から、ザ・ハルキワールドという感じの展開。もちろん、いい意味で用いている。ハルキストたちの中には、初期の作品が村上春樹の作品であり、最近のものは今ひとつだという意見もあるようだが、個人的には最近のものの方が入りこみやすい。『1Q84』も良かったし、本作も読んでいて心地よかった。
心地よいのは物語と文体だけではない。ところどころでハッとさせられる文章がある。とりわけ以下の箇所はお気に入りの一文である。
「あなたには望んでも手に入らないものを望むだけの力があります。でも私はこの人生において、望めば手に入るものしか望むことができなかった」(269頁)
すごいなと思ったのは、50節と51節の冒頭部分。本作は書き下ろしであるにも関わらず、その前節の最後の一文と冒頭の一文とまったく同じにしている。緊迫する場面の臨場感が、新聞小説のような手法によってその効果が上げられているのではないか。
本作の最後には<第2部終わり>とある。作品自体はこれで終了しても違和感がない、というか終わったものだと私は思っているが、果たして第3部が発表されることはあるのだろうか。
【第896回】『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』(村上春樹、新潮社、2017年)
【第796回】『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹、文藝春秋、2013年)
【第791回】『1Q84 BOOK1』(村上春樹、新潮社、2009年)
【第792回】『1Q84 BOOK2』(村上春樹、新潮社、2009年)
【第793回】『1Q84 BOOK3』(村上春樹、新潮社、2010年)
【第782回】『職業としての小説家』(村上春樹、スイッチ・パブリッシング、2015年)
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