2018年10月21日日曜日

【第896回】『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』(村上春樹、新潮社、2017年)


 漱石の作品は漱石だと分かるし、三島の作品も三島の手になるものだと分かる。それらと同様に、村上春樹の作品は、著者名を隠されて読んでも分かる、と思う。それほど彼の文体は確立されたものであり、他の現代小説家とは屹立した存在であると言えるのではないだろうか。

 穏やかで一見してスピーディーではないにも関わらず、多様な登場人物が突如として発散的にエピソードを撒き散らす。第1部を読んでいる現時点では、どのように収束されるのか分からないが、複数の謎がきっと最終的にはどこかに集結点を描き出すに違いないと、どこか安心しながら読み進められる。

 予定調和の感覚を持ちながらも、物語としての不調和性の両立、といったところであろうか。

 大事なのは無から何かを創りあげることではあらない。諸君のやるべきはむしろ、今そこにあるものの中から、正しいものを見つけ出すことなのだ(361頁)

 まず誤植ではないことを述べておく。これは、題名の一部にもなっている「騎士団長」という(現時点では)不可思議なキャラクターの台詞なので独特の妙な言い回しになっているのである。

 しかし、こうした変な言葉であるからであろうか、よりいっそう重みのある言葉であるように思えるから不思議なものである。

【第791回】『1Q84 BOOK1』(村上春樹、新潮社、2009年)
【第792回】『1Q84 BOOK2』(村上春樹、新潮社、2009年)
【第793回】『1Q84 BOOK3』(村上春樹、新潮社、2010年)
【第782回】『職業としての小説家』(村上春樹、スイッチ・パブリッシング、2015年)
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