インターネットの匿名性による犯罪。私が知る限りでは、著者は推理小説を書く方ではない。そのため、中盤以降から話題の中心となる犯罪を犯した人物は想像に難くない(誤解かもしれないが)。ある予期を持って読み進めることになり、誰が犯人なのかというよりも、なぜ殺人を犯すのかという点に関心が湧く。
プロットとは直接関係ないが、思わず首肯したのがこちら。
他者を承認せよ、多様性を認めよと我々は言うわけです。しかし、他者の他者性が、自分自身にとって何ら深刻なものでない時、他者の承認というのは、結局のところ、単なる無関心の意味でしょう。(453頁)
新しい形の犯罪であるにもかかわらずやや古い印象を抱くのは、本書のハードカバーが出版されたのが2008年だったからだろうか。その後に、FacebookやInstagramといった実名でのSNSが主流になったために、インターネットの匿名性というものに古いイメージを持ってしまう。
【第985回】『考える葦』(平野啓一郎、キノブックス、2018年)
【第774回】『マチネの終わりに』(平野啓一郎、毎日新聞出版、2016年)
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