いやはや予測を裏切る展開となった。主人公を最後のシーンへと誘ったのは一体なんだったのか。いかようにも解釈できる余韻を持たせた結末であり、読者は色々と考えることができる。悪はなぜ生まれ、伝播していくのか。この物語を読んでいると、どうしても悲観的に考えてしまう。
自分の中に堆積していた様々な記憶の断片が、何か大きな棒のようなものを差されて、力任せに一掻きされたように、底から身を翻しつつ湧き起こっては、しばらく渦を巻きながら意識の内側を巡り、その色を混濁させた。(103頁)
切れぎれの、今にも夢の向こうが透けて見えそうな昨夜のうっすらとした眠りは、どうにか掻き集めても、三時間程度の分量にしかならず、その頼りない手応えの分だけ、体には重みが残った。(440頁)
どちらも主人公の内面を描写している。彼が抱える悩み、葛藤、暗部を、読者があたかも目の前に想起できるようだ。
【第995回】『決壊(上)』(平野啓一郎、新潮社、2011年)
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