2019年10月12日土曜日

【第993回】『64(上)』(横山秀夫、文藝春秋社、2015年)


 警察機構を題材とした小説であり、暗い印象のある書き出しから始まる。冒頭からしばらくは人物同士の関係性がわかりづらいが、次第に明らかになりかつ物語に引き込まれているのは、さすがの展開力と言え、文句なしに面白い。

 三上は階段の踊り場に立ち尽くした。
 上の階は刑事部。下は警務部。自分の立っている場所が、そのまま己の置かれた立場に思えた。(160頁)

 元々は刑事部の出身であり、自分自身を生粋の刑事だと思っている主人公。しかしながらキャリアの初期の段階で広報部というスタッフ部門にわずかながら経験し、現在も広報部という警務部側に色分けされる立場で働く。その葛藤が文章によく現れている。

 三上は運転席のウインドウを少し下げた。冷気が頬を撫でる。わずかばかりの葉を残した歩道の冬木立が北風に鳴いている。(313頁)

 ここの表現もまた、いい。主人公の置かれる厳しい環境が、情景に描写されている。

【第905回】『空飛ぶタイヤ』(池井戸潤、講談社、2009年)

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