2018年7月7日土曜日

【第851回】『人事管理ー人と企業、ともに活きるために』(平野光俊・江夏幾多郎、有斐閣、2018年)


 人事パーソンが、現代の企業における人事の課題とその対応に関する考え方を、網羅的かつ入門的に把握するのに適した一冊である。入門的にと書いたが、随所に深掘りさせる意欲的な箇所があり、読ませる部分も随所にある。

 たとえば、評価と報酬の関係性をモデルで示している以下の図(128頁)だ。


 この図は、描かれてみると当たり前にも思えるのであるが、ここまでシンプルで納得的に表された概念図は、浅学ながら見たことがなかった。評価要素と給与の関係性の図はよく目にするものであろう。しかし、評価要素と地位との関係性を端的に示し、かつそれを評価要素と給与の関係性と重ねている点が興味深い。

 さらには、年齢給という日本企業において特殊な存在を、他の要素と関係していないことを敢えて図示しているのもアイロニーが利いている。関係ないものを省くのではなく、関係していないということを可視化することは、モデル化する上で時に重要なスパイスとなる。

 次に、人財育成に関する指摘を見てみたい。

 今日では、従業員に求められる行動やそのために必要な能力の基準を、企業が社会全体の動向を見据えて可視化することが、有能な人々を集め、チームとしてまとめるために必要である。(中略)
 こうした現状から、エンプロイアビリティに立脚した雇用関係の必然性が浮上する。エンプロイアビリティ獲得のためには、プロフェッショナルとしての能力の習得機会を従業員が主導的に見つけ出して利用すること、そうした機会の発見・利用を企業が支援することが求められる。(中略)
 従業員が「社内プロ」化することに対して積極的に投資を行う企業の姿勢は、労働市場における校庭的な評判と、従業員による「自分はそうした企業の一員なのだ」という意識、および「この企業にとどまってさらに成長したい」という意欲を引き出しうる。(158~159頁)

 エンプロイアビリティが働く個人の視点で重視され始めたのは、日本では2000年頃からである。それに合わせて、企業が社員のエンプロイアビリティを高めることも必要であると言われるようになった。しかし、社員のエンプロイアビリティを高めることは、結果としてマーケットバリューを上げることに繋がり、退出リスクを高めることになりかねないために企業は二の足を踏むことも多い。

 著者たちが上記の引用箇所で述べているのは、それでも企業が社員のエンプロイアビリティを高める支援をすることの必要性である。個人にとっても、企業にとってもメリットがあるという指摘は、本書の副題である「人と企業、ともに活きるために」が単なる綺麗事ではなく標榜すべきテーマであることをよく表しているのではないだろうか。

【第229回】『日本型人事管理』(平野光俊、中央経済社、2006年)
【第1回】キャリア・ドメイン(平野光俊著、千倉書房、1999年)
【第425回】『人事評価の「曖昧」と「納得」』(江夏幾多郎、NHK出版、2014年)

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