2018年1月14日日曜日

【第799回】『華麗なる一族(上)』(山崎豊子、新潮社、1980年)

 山崎豊子は好きな作家の一人である。不思議なもので、他の小説家のようにハッとさせられる稀有に美しい一文はほとんどないし、人物の特徴も様々な作品で共通しているように思える。しかし、とにかく物語に惹き付けられて、人物の良さにも魅了され、次が気になって読み進めてしまう。

 登場人物に人間味を出すのがうまいのか、はたまた人物を取り巻く背景の描写が卓越しているのか。いずれにしろ、読者を物語に入り込ませるその技量に唸らさせられる。

「兄さん、お父さんと争うなんて無駄なことですよ、企業家としての識見、財力、社会的地位、すべての点で何一つ、僕たちはお父さんにかなうものがない、だから勝ちっこありませんよ」
 とだけ応え、階段を上って行った。
「勝ちっこないか、あるか、僕はとにかくやってみる、これ以上、お父さんには頼みません」
 鉄平は、父に挑むように云った。(448~449頁)

 兄と弟がそれぞれ父に対して述べている。エネルギッシュに父親に対抗しようとする兄に対して、一見すると弟は諦念の感じが強い。しかし、こうしたニヒルな想いの方が、父親からするとしんどいのではないかとも思えるがどうであろうか。対抗するエネルギーがあればまだ対応のしようがあるが、表に出ない内在化されたエネルギーの方が、対処のしようがなく難しいものである。



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