2019年2月10日日曜日

【第929回】『女性の視点で見直す人材育成』(中原淳/トーマツイノベーション、ダイヤモンド社、2018年)


 「はじめに」で著者が述べている通り、本書は女性のためだけの本ではなく、人財育成を職場ですすめるためのガイドブックであると感じた。著者が他の書籍、特に『駆け出しマネジャーの成長論』『職場学習論』『フィードバック入門』で述べているポイントを、女性ワーカーを対象とした統計分析の結果に即して概説している。著者の他の書籍のポイントを一冊でカジュアルに読めるという意味でもお得感がありそうだ。

 「「誰もが働きやすい職場をつくること」ことが、人や組織の成長を促すという考え方」」(62頁)に基づいて編まれた本書は、私たちが企業組織において直面する課題を意識しながら読める。

 職場をつくるためには、個人を育てるだけではなく職場を育むことも必要だ。そうした意味では「人が育つ職場(環境)をつくっていくことこそが究極の人材開発である」(62頁)という著者の考え方に納得できるのではないだろうか。

 こうした考え方に即した本書において、女性ワーカーを対象とした統計分析から得られたポイントとして特に以下の二点が勉強になった。

 女性活躍推進のカギは、長時間労働の見直しなどをはじめとした「働き方の見直し」なのです。(81頁)

 残業しなければ出世できないと感じられる職場においては、労働時間に制約のある方々にとってより上位の職制を担おうとする意欲を下げてしまう。これは女性に限ったものではなく、育児を行う男性社員、親の介護を行う社員など、多様な人々に影響を与えるものである。

 この事象は労働時間だけではなく働く場所の制約にも関連する。そのため、働き方をどのように捉え、多様な働き方をどのように認め、多様な人々との相互理解をどのように促すか、ということが「働き方の見直し」には含まれるのであろう。このように考えれば、人財を開発するだけではなく職場を開発することも焦点に当たっていることがお分かりいただけるだろう。

 二つ目は「リーダー初期の成功が、マネジャー期の成果を規定する」(111頁)という指摘である。本書におけるリーダーとは、労務管理やパフォーマンス管理の対象ではないが業務上の指導や指示を行うメンバーを持つ役割を担う職制を指している。

 家庭やライフイベントの多様性に富んだ女性に現れるデータであるかもしれないが、これは女性に限らないと言えるかもしれない。つまり、リーダー期において擬似マネジメント行動を適切に学ぶことができて成功体験を踏められれば、マネジャーになった際にその経験を活用することができると考えられる。

【第901回】『組織開発の探究』(中原淳・中村和彦、ダイヤモンド社、2018年)
【第862回】『研修開発入門「研修転移」の理論と実践』(中原淳・島村公俊・鈴木英智佳・関根雅泰、ダイヤモンド社、2018年)
【第727回】『人材開発研究大全』<第1部 組織参入前の人材開発>(中原淳編著、東京大学出版会、2017年)

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