スピーディーな展開で一気に引き込まれる。歴史小説でありながら、現代小説を読むようなイキイキとした感じがする。カラフルな情景が思い浮かび、登場人物の息遣いが聞こえてきそうな作品である。
小説でありながらも、歴史に関する洞察にハッとさせられる部分もある。たとえば、当時の百姓たちがなぜ一向宗を拠り所とするようになったのか。
源爺は百姓である。
戦時には兵として徴発され、平時には年貢と労役を強要された。留吉の父母である息子夫婦もその過酷な生活の中で死んだ。源爺にとって、活きるとは望みを捨てることであった。この爺が望みを後生に託すべく一向宗に傾いたのも無理からぬことである。(273頁)
月並みな表現となるが、自力で人生を豊かにし生きていける力がないと思った時に、人は、宗教へと誘われるであろう。そうした人々を断罪するのではなく、そのような人々を多く生み出している社会の側の責務に、私たちは目を向けるべきなのかもしれない。
海賊衆は陸の武士とは異なるしきたりの中で生きている。それは織田家が勃興する遥か以前からの習わし出会った。その前では、天下を窺う信長でさえ無力と言えた。(331頁)
海賊にはなんとなく野蛮なイメージがつきまとう。しかし、仁義を大事にし、新しい文化に柔軟で、粋な生き方を好む人々であった。現代のダイバーシティーを先んじて実践していたかのような存在にも思えてくる。続巻が楽しみな第一巻であった。
【第384回】『国盗り物語(一)』(司馬遼太郎、新潮社、1971年)
【第385回】『国盗り物語(二)』(司馬遼太郎、新潮社、1971年)
【第386回】『国盗り物語(三)』(司馬遼太郎、新潮社、1971年)
【第387回】『国盗り物語(四)』(司馬遼太郎、新潮社、1971年)
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