2011年4月17日日曜日

【第21回】『プレップ労働法【第3版】』(森戸英幸著、弘文堂、2011年)

INAXメンテナンス事件の最高裁判例が出されたときに本書を読んでいた、というのは偶然の一致である。しかし、その偶然の一致によって、労働者とはなにかということを強く意識しながら本書を読むこととなった。

労働法とは、事業主や管理者と労働者との関係性を扱う法律であり、より一般化すれば私人間の法的問題を取り扱うものである。私人間の法的問題を扱うおおもとの法律は民法であるのだから、民法と労働法との関係性について述べることで筆者は本書を書き進めている。

では民法に対する労働法の意義はなにか。端的に記せば、職場に適しづらい民法の考え方をケアするのが労働法である。筆者によれば、民法の考え方の大前提である契約当事者の平等をそのまま職場に適用してしまうと、労働者と使用者とは対等な立場にあるということになってしまう。すなわち、自由に契約を解除できるという民法の法理をそのまま適用すると、使用者は労働者を自由に解雇することができることとなってしまう。こうした民法による契約当事者の平等性を企業における労働の実態に近づけるかたちで法律化したものが労働法なのである。

労働者の使用者に対する劣位な状況を改善するための枠組みの一つとして、労使協定がある。労使協定の成立要件に過半数組合または過半数代表者の同意を要件としていることは、労働者と使用者とが一対一で自由に契約を結ぶことの潜在的な不利性を緩和しようとしていることであろう。労働者が複数集まることで使用者との対等な関係を築くことが労基法の基本的な考え方なのである。

こうした文脈で捉えるとINAXメンテナンス事件の最高裁判例に考えさせられることは多い。

本事件は、高裁判例が出された時点で後述するものをはじめとしたいわゆる「判例集」に取り挙げられるほど注目されていたものである(判例集に載るもののほとんどは最高裁判例である)。争点は、個人事業主が労組法上の労働者として認定されるか否か、ということであった。

地裁、高裁に続き、数日前の最高裁においても、労働状況を実態的に判断することで、個人事業主であっても労組法上の労働者として認定されるという判決が出された。特定の企業に雇われない存在である個人事業主に労働者性が認められることは、これまで企業内に閉じられていた労働法の守備範囲が企業外にまで広がったと言えるだろう。

この具体的なインパクトの一つとして本書を読んで類推したものが、労働協約の拡張適用に関するものである。労組法17条によれば、「一の工場事業場」に常時使用される「同種の労働者」の4分の3以上がある1つの労働協約の適用を受けることになった場合には、その工場事業場に使用される他の同種の労働者、つまり非組合員に関しても、その協約が適用される。この条文の効果の一つとして、著者は拡張適用が職場の労働条件の統一化に繋がることを指摘している。

したがって、労組法上の労働者として認定される個人事業主は、同種の労働者に近い労働条件を認められるようになるのではないか、というのが初学者である私なりの類推である。このように考えるため、今回の判例の影響の大きさを感じ取るのである。

他方で、INAXメンテナンス事件の判例を手放しで称揚するわけにもいかないようだ。明治大の野川教授は『労働判例インデックス【第2版】』において、同事件の高裁の判旨における個人事業主を労働者として認定する判断枠組みの硬直性を指摘している。つまり、実態判断の判断枠組みを今後の判例で積み上げていく、ということが裁判所や学者に求められることになるのであろう。

そうした労働法の解釈と現場のビジネスへの適用に対して、一人の人事実務者として意識を強く持つことは言うまでもない。個人事業主のような自由で柔軟性の高い新しい働き方をいたずらに制約するような判例や法解釈に対しては、実務者として声を上げていく必要があるだろう。実態判断の解釈の難しさにより、個人事業主の労働者性をめぐる裁判が多くなることが予想されるため、引き続き注視していきたい。

<参考文献>
野川忍『労働判例インデックス【第2版】』商事法務、2010



0 件のコメント:

コメントを投稿