しかしながら、本書のタイトルには、経験学習の後にリーダーシップという概念が続きます。意外な感を抱きながら読み始めると、私と同じような読者が多いことを想定されていらっしゃるのか、題名にリーダーシップという言葉を用いた理由を冒頭で解説されています。
「OJT」や「コーチング」ではなく「リーダーシップ」という言葉を使ったのは、育て上手のマネジャーが、1対1の指導だけでなく、部下に任せる仕事を創り上げたり、職場全体の運営も工夫しているからです。(3頁)
個人が自身で成長することには限界があり、また育成責任を職制として負う個人が個人を育成することにも限界があります。そのような現場のリアリティを踏まえて、職場全体での面による育成が着目され始めたのは、中原淳先生の『職場学習論』あたりからでしょうか。その流れを受けて、経験学習も職場全体で行うものであり、経験を基に学習する職場づくりを行うことがリーダーには求められると筆者はしているのです。
筆者が行った育て上手のマネジャーを対象にした調査で浮かび上がってきたキーワードは「強みを引き出すこと」でした。強みにフォーカスを置いた書籍は昨今多いですが、著者は「育て上手のマネジャー調査を開始した段階では、「強み」に注目していたわけではありませんでした」(9頁)としています。調査の結果として、経験学習サイクルを回すことを支援するドライバーとして、強みが出てきたという点には興味深いものがあります。
さらに、強みに着目する大切さを深掘りする過程で、心理学・経営学・哲学という三つの領域を挙げ、哲学においては西田幾多郎が取り上げられているところに新鮮さを感じます。強みというと個人という単位を捉えますが、西田を引きながら社会や人類一般を射程に置いて以下のように述べます。
その人本来の強みである「個人性」を生かして、社会や人類のために役立てたときに真の善となるという考え方です。(14頁)
個人としての善を基点に、社会における善へと拡げていくことが、強みを考えるうえでの重要なポイントのようです。こうした個人の強みを引き出しながら育て上手のマネジャーが行う指導の要諦を以下のようにまとめられています。
① 部下の強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づける
② 失敗だけでなく成功も振り返らせ、強みを引き出す
③ 中堅社員と連携しながら、思いを共有する
それぞれのポイントについては、事例を交えながらわかりやすく解説されています。部下を持つ管理職の方々、育成に関心のある中堅社員の方々にぜひ勧めたい一冊です。
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