2011年5月1日日曜日

【第23回】『会社法【第2版】』(伊藤靖史・大杉謙一・田中亘・松井秀征著、有斐閣、2011年)

会社法について学ぶのは本書が初めてである。普段はあまりに自明すぎて意識して考えることが少ない「会社」というものについて、法的な観点から考えさせられる良い契機であった。初学者なりに感じ取った部分を書いてみたい。

日本において株式会社制度が導入されたのは、1872年に制定された国立銀行条例において株主の責任規定が明示されたことが萌芽であると言われている。では、なぜそれまでの日本における商習慣の延長上として企業の制度を作るのではなく、西洋からの輸入物である株式会社制度を導入したのか。

本書によれば、そこには資金調達の側面に理由があるとしている。つまり、諸外国からのプレッシャーに伍するために殖産興業の推進が必須命題であった明治政府にとって、巨額の長期資金を企業に結集させるしくみとして株式会社制度が輸入されたというのである。

こうした背景を持って導入が進んだ株式会社制度には、いくつかの主体間におけるバランスに対する「配慮」があり、それが興味深く思えた。たとえば、単独株主権と少数株主権との比較である。

単独株主権とは、「1株でも株式を保有する株主であれば行使できる権利」である。他方、少数株主権とは、「行使のために一定数の議決権、または総株主の議決権の一定割合の議決権もしくは発行済株式数の一定割合の株式を有することが必要とされる権利」である。

このような二つの権利はお互いに牽制し合う緊張感のある関係性にあると言えるだろう。単独株主権を広く認めすぎると、あまりに多くの株主が自由に主張を言い合う百家争鳴の状況に陥り、何も決められなくなってしまうという状況に陥る可能性がある。したがって、環境変化に対していち早く対応することが難しくなってしまうだろう。

そうかといって、少数株主権に重きを置きすぎることにも課題がある。多くの権利を少数株主権にしてしまうと、多数派株主や取締役の権限濫用に対する対抗手段がなくなってしまう。その結果、少数の株主を保有するというインセンティヴが減衰してしまい、多くの資金を集めるという株式会社の本来の意義にもとることになってしまう。このように対立しがちな個別の事象についてバランスを考えることが会社法では求められているのである。

本書の内容を全て理解した、というレベルからは程遠く、会社法にはどのような項目があり、どのような議論が為されているのかについて目を追っただけにすぎない。しかし、よく分からないなりに項目を拾い読みするという読書のスタイルにもそれなりに意味があるのではないか。その場で理解できないことであっても、後日なんらかのキーワードが気になって調べことで理解する、ということはよくあることだ。そのためには、分からない状態でもまずインプットしておかないと、そもそも調べるという行動に移ることはないだろう。

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