2011年12月19日月曜日

【第58回】『諸外国の労働契約法制』(荒木尚志・山川隆一編、労働政策研究・研修機構、2006年)

 本書は、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカの労働契約法を比較することで、日本における労働契約法の特徴を明らかにするものである。企業のグローバリゼーションへの対応は画一的なものと捉えられがちであり、法務面でも同じ誤解があろうが、労働契約法の分野においては、二つの大きな違いがある。

 一つめは、大陸法とコモン・ローとの違い、すなわち制定法を重視するドイツとフランスと、コモン・ローに立脚するイギリスとアメリカの労働契約の考え方の違いである。大陸法は伝統的に制定法により積極的に規制してきたのに対して、コモン・ローにおいては制定法による規制に消極的であり、労働市場の自律的な調整機能に委ねる傾向が強い。大陸法においては制定法によって統一的な解釈が行われるのに対して、英米法においては、制定法が存在しない場合、コモン・ローにより個別の解釈の問題となるのである。

 二つめは、EU圏に属するドイツ、フランスおよびイギリスと、アメリカとの違いである。この両者においては、とりわけ解雇規制に関する違いが顕著である。アメリカにおいては一部の州を除いて解雇に正当事由を要求する立法はなく、差別規制等に反しない限り解雇を原則的に自由としている。これを随意雇用原則と呼ぶ。それに対して、ドイツ、フランス、イギリスにおいては制定法によって解雇を行う上での制限が課されている。具体的な要件としては、ドイツにおいては社会的に不当でないこと、フランスにおいては真実かつ重大な理由、イギリスにおいては公正さが、求められるのである。

 上記のような二つの異なる点があるわけであるが、いずれの国においても解雇を制限する潮流が見られることが興味深い。EU圏においては制定法によってそうした流れが創り出され、アメリカにおいては州単位ではあるが判例によって推進されている。では、各国において解雇法理が今後も厳格化するかと言えばそのようなわけではないだろう。グローバル展開を行う企業が各国において柔軟な人事施策を展開し易いように、中庸を目指して法が修正されていると見るべきではなかろうか。このように考えれば、日本のように解雇法理が厳格な国家においては、それが緩和する方向に向かうことが充分に予見されると言えるだろう。




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