「働き方研究家」を自称する著者の最新著である。十年ほど前に著者が著した『自分の仕事をつくる』は何度も読み返すほどの素晴らしさであったが、本作もまた再読したくなる良書であった。
仕事の目的を題材とした著作は多い。そのほとんどが精神性を重視するものであったり、漠然とした観念を扱うものである。そうした中にあって、本書ではリアリティを徹底的に追求するものであり、読みながら自身のキャリアや働き方について考えさせることが多かった。その中でも特に考えさせられた点について述べていきたい。
第一に、著者は「大切にしたいと考えている」ことを問うのではなく、働いている中で実際に「大切にしている」ことは何か、と問う。つまり、思考を介在して取る行動ではなく、自然と身体が動くように自分が繰り返していることはなにか、と問うているのである。
この視点の変換は大きい。つまり「大切にしたいと考えている」というスタンスでは、自身の思考による創作が入ってしまう。もちろん、そうした観点も大事であろうが、思考があまりに介在することによって、しっくりこなかったり、無理が生じてしまうということがある。そうした創作物は、ともすると自分で創ったものが自分自身を不幸にするといういわば疎外を生じかねない。
そうではなくて、実際に自分が自然と繰り返していることに着目すること。これを明らかにすることは、自分自身が気づいていない自分自身の内なる多様性に目を向けることに繋がる。こうしたことを行った後にはじめて、「大切にしたいと考えている」という将来軸のスタンスを少し加味するのが良いのではないだろうか。
第二に、働く上での対象についてである。著者は具体的で身近なものに自分の力と時間を投資している人に共感をおぼえるという。崇高な理念や競争を勝ち抜くための企業戦略も大事であろう。しかし、私たちが貢献し、その結果としてときに感謝を得られる対象は、あくまで具体的で私たちの身近なものである。そうした対象に対して限りあるリソースを投入するということは、仕事にいわば命を吹き込むということになるのだろう。
こちらから命を吹き込むことによって、対象からも命を吹き込まれることになる。仕事の文脈で言えば、それは対象からの評価でありフィードバックである。それは、自身と対象との絶え間ない相互交渉であり、その結果としてポジティヴな緊張関係が生まれる。そうすることで、お互いに成長し合える関係性が生じるかもしれない。
ここから派生するのが第三の長期的な関係性である。著者が行ったインタビューの中で、あるインタビュイーは、商売を交わすことで人と長く関わることの面白さを述べている。さらに、それが一時的なもので終わらないことが楽しいところであり、それと同時に辛い部分でもあると言う。
営業活動もそうであるし、企業内における人材育成もそうである。単発的ではなく長期的に関係性を継続すること。辛いことと楽しいことをはじめとしたすべてを受け容れることが、働くということであり、働く目的なのではないだろうか。