2012年10月13日土曜日

【第116回】『経営は「実行」』(L・ボシディ+R・チャラン+C・バーク、日本経済新聞社、2003年)


 五年前に本書を読んだとき、私は人材育成のコンサルタントであり、かつ修士課程の学生であった。タイトルにある「実行」という当たり前のことを企業の中で継続し続けることの難しさを分からなかったからか、それほどインパクトのある書物ではなかったことを記憶している。今回、本書を読み直してみて、実行をいかに企業の中で実現させるかについて気づきを得られる点が多々あった。

 実行とは、計画を立てたあとに粛々と遂行するという生産管理におけるPDCAのDに当たるものではない。そうではなく、体系的なプロセスであり、絶えずフォローすべきものである。したがって、戦略計画を立てる段階において、結果に責任を負うべき全ての関係者を巻き込み、どのようにして実行するのかを確認し合うことが重要である。

 では体系的なプロセスとは具体的にはなにを指すのか。本書では人材プロセス、戦略プロセス、業務プロセスという三つの要素から成り立つとされている。

 まず人材プロセスについて、多くの企業は現在のポストにおける仕事の評価を重視しすぎていると著者は警鐘を鳴らす。実行する文化を創り込むためには、明日の仕事ができるかどうかという観点から人材プロセスを見直すことが重要なのである。著者の一人であるボシディは、アライド・シグナルに復帰して人材プロセスを構築し直した際に、真っ先に人事部門の人材を強化したという。その結果として、会社全体を実行へ向けて動かせるようになったそうだ。人事部門を事業に結びつけることを通じて、人材プロセスをアップグレードすることが企業には求められているのであろう。

 戦略プロセスにおいては、戦略をトップが用意するという従来のスタンスは望ましくない。そうではなく、戦略の中身と細部については、実行に最も近い社員の考えを前提にして決めるべきである、とされている。むろん、トップは現場から上がってくる情報を受身的に待てば良いということではなく、現場とトップとの戦略レビューを効果的に活用するべきである。現場の担当者に対してしつこく質問を繰り返すことで、実行可能なレベルに落とし込み、その責任の所在を明らかにする。こうした一連のプロセスを回すことで、戦略レビューの場をトップが人材について学び人材を育成する格好のコーチングの舞台に設えることができるのである。

 ここまで述べた人材プロセスと戦略プロセスとを連動させるものが業務プロセスである。業務計画をレビューする際に特に重要な点として挙げられているのが、参加者個々人が持つ想定についての議論である。部門や役職が異なればある事象について抱いている想定が異なることは当たり前であるが、往々にしてそうした差異は明らかにされないことが多い。そうではなく、前提条件になる想定を議論することで、現実的な目標を設定することが業務プロセスにおいて肝要である。

 実行とは計画に基づいて行うという静的な行為ではない。むしろ、人材プロセス、戦略プロセス、業務プロセスを統合させることで常に動的に創り込む作用であることを意識し、愚直に「実行」し続けることが現代の企業には求められているのである。

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