本書における著者の仮説は、帰納的に紡ぎ出されたものである。その際に最も参考になったとしているものが「はちみつ黒酢ダイエット」などで有名なタマノイ酢社での調査研究だ。著者が明らかにしているタマノイ酢のジョブアサインメントは独特である。まず、若手に対して非常に大きな仕事を与える。たとえば営業部門であればビッグクライアントを新入社員に任せることもあるという。次に、新入社員を配属する上で相手の専門性を重視しないという特徴もある。文系学部出身者を研究所に配属するケースもあるとのことだから、その本気度合いが伝わってくる。さらには入社数年の間は極めて頻繁に異動を繰り返させる。一部の例外を除いて、原則的には一・二年のスパンで異動をさせるというのだからその頻度と早さの凄まじさが分かるだろう。
こうした三つの特徴が組み合わされることで、職場には誰かからの教えを必要とする人材が常に、そして複数存在することになる。その結果として、お互い様といった具合に助け合い、関わり合う職場が機能している、という仮説を著者は提示している。帰納的に紡ぎ出した仮説に対して、経営学はもちろんのこと、公共哲学といった一見して意外な学問領域の先行研究を用いて仮説を深めている点は興味深い。研究を志す人間にとっては、刺激的な取り組みである。
研究プロセスについては詳細に渡るため、本書をお読みいただくとして、理論的含意と実践的含意で特に興味深いと思った点は以下の三つである。
一点目は、集団的なマネジメントが個人の自律的な創意工夫を促す、という点である。社員の自律性を重視するというととかく個人主義を助長するという誤解を生じがちであるが、集団的なマネジメントと社員の自律性が相関するという点は示唆に富んでいる。さらには、過度に集団的なマネジメントは社員の自律性を損なうという逆転共生関係を導き出しているのが本研究の秀逸なファインディングであろう。
二点目は、職場における関わり合いの強さを規定する仕事の相互依存性と目標の相互依存性とが主観的なものを前提にしているという点である。つまり、職場のメンバー間における目標が客観的に整合性が取れているだけでは関わり合いを強化することには必ずしも繋がらない。それぞれのメンバーが目標の整合性が取れていると心の底から思い、またお互いの仕事が相互に依存していると思っていることが必要条件なのである。とりわけマネジャーにとって示唆に富んだ含意であろう。
三点目は、職場という概念自体に関することである。本書では会社という単位と個人という単位の間にある職場に注目を当てている。翻って、職場という概念に注目することで、既存の組織という枠組みを超えた職場の重要性が明らかになる。つまり、これまでの仕事の進め方の主流であった部門や部署といった単位としての職場から、組織内外のクロスファンクショナルで組成されるプロジェクト単位としての職場が浮かび上がってくるのである。既存の静態的な職場における関わり合いだけではなく、動態的な職場における関わり合いをどのように創り出すか。著者が提示しているポイントは、私たちの「職場」に対する捉え方を拡げるものであるとともに、私たちが直面しているやや頭の痛い課題を的確に示している。
『自律する組織人』(鈴木竜太、生産性出版、2007年)
『組織と個人 キャリアの発達と組織コミットメントの変化』(鈴木竜太、白桃書房、2002年)
キャリア・ドメイン(平野光俊著、千倉書房、1999年)
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