著者の先行文献でも議論されている通り、組織コミットメントには功利的コミットメントと情緒的コミットメントとがある。経済情勢や企業における制度といったハード面が功利的コミットメントに影響を与え、ソフト面は情緒的コミットメントに影響を与える。本書で著者が研究を進めている点は、情緒的コミットメントの中に二つの要素があるという点である。第一は、仕事の豊かさや役割の状況といったものであり、これは組織と働く個人とが一対一の関係であることを念頭においた捉え方である。第二は、いわば職場の雰囲気であり、こちらは組織と自分とが多対一の関係として見た場合の捉え方となる。
組織コミットメントは、横軸に時間(t)を置いた場合にJ型になることが著者の研究から言われている。その最初の落ち込みの原因がリアリティ・ショックである。入社前に抱いていた組織像・仕事像と現実とのギャップにより組織コミットメントが低下する現象である。その対処方法として調査の結果示唆されている点が興味深い。第一がギャップが解消されるケースであり、これは当初抱いていた期待を下方修正することで現実に適応させるということである。第二の個人による先送りと、第三の規範的な理由による先送りという対応を行うと、組織コミットメントは修正されずにそのまま低いままとなる。
こうした第二と第三の対処はキャリアの停滞へと繋がるリスクを内包する。それらを解決するために、キャリア自律が一つの解決策として本書では提示されている。組織コミットメントを研究し続けている著者が、自律的にキャリアを捉えることが組織コミットメントの強化に繋がることを提言している点が興味深い。キャリア・ディベロップメントと組織コミットメントに関する調査から、二十代後半から三十代にかけて自分のキャリアを考える人がそれほどいないと著者はしている。こうした驚くべき状況からすれば、キャリア自律を積極的に企業ですすめることは重要であろう。
キャリア自律をすすめるということは、組織と個人との関係性を双方向で捉えることに繋がる。従来、組織と個人とは一方向で捉えられがちであった。組織人間と揶揄されるように、組織から個人への捉え方が日本の大企業では当たり前であった時代があった。また、個人のエゴにより個人が組織を利用するという側面ばかりが重視されるケースも最近ではあった。しかし、著者が主張するのは、キャリア自律によって組織と個人とがお互いに建設的な双方向の関係性を築けるということである。会社から見た「組織と個人の関係観」と個人から見た「組織と個人の関係観」を結びつけるという視点である。
このような関係性から考えれば、本書のタイトルにもある「自律する組織人」の理念型が二つ導かれると著者は結論づける。一つは、「自分のアイデンティティを強く持ち、それにより組織ときちんとした距離にいる存在としての組織人」である。もう一つは、「組織を背負っていくような形での自律する組織人」である。キャリア自律と組織コミットメントの関係性は一義的ではない。それぞれの理念型をどのように組織としてマネジメントしていくかは、企業の置かれている環境やビジネスモデルによって異なる。また、多様な個人の側の対応によっても変わるのである。個人の側にとっても、組織の側にとっても、いかに環境変化に合わせてそれぞれの関係性を柔軟に捉えて適合させることが必要であろう。
『関わりあう職場のマネジメント』(鈴木竜太、有斐閣、2013年)
キャリア・ドメイン(平野光俊著、千倉書房、1999年)
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