2011年7月24日日曜日

【第35回】『いつでもクビ切り社会』(森戸英幸著、文藝春秋社、2009年)

日本企業の伝統的な人事管理システムは、新卒一括採用、年功賃金、終身雇用などからなると言われる。このシステムの根幹を成すのが定年制度である。大学卒業とともに入社した新卒社員を、市場価値に比べて相対的に安い賃金で一律に働いてもらい、年功にあわせて給与を上げる。そして、市場価値に比べて相対的に高くなりすぎた状態の人材をポストオフするために必要な手段として定年が存在する。

しかし、この定年が年齢要件による差別として見られるようになってきている。最近の労働の政策としては、再雇用制度を設ける、定年の開始時期を65歳まで引き伸ばす、定年をなくす、のいずれかが企業に求められている。三つ目のものを導入する企業が少ないのが現状であるが、日本マクドナルド社が導入して話題となったことは記憶に新しい。

では、こうした定年制度をなくすいわばエイジフリーと呼ばれる施策に問題はないのだろうか。エイジフリーというと年齢に関わらず働けるというポジティヴな意味合いに聞こえるが、それは同時に年齢に関わらずクビになるということを意味する。これまでは定年がいわば公明正大なクビの宣言という機能をも果たしていたのであるが、定年がなくなれば、常にクビのリスクにさらされることになる。恐らく、こうした企業の現実に合わせるために、労働法規は解雇制限の緩和化へと軸足を移すのではないだろうか。

こうした問いに対する著者の結論はシンプルだ。日本がエイジフリー社会になる可能性は高い。したがって、それに備えることが必要だということである。

とりわけ、20代~30代はエイジフリーの波に臆することなく、むしろそれを追い風にすべし、という著者のアドバイスはその通りだろう。高度経済成長期のように景気上昇に合わせて企業業績が向上してポストが増える、という状況とは全く異なるが、何れにしてもポストが空くことは機会に違いないだろう。

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