2011年7月31日日曜日

【第36回】『デザイン思考が世界を変える』(T.ブラウン著、早川書房、2010年)

 よく多様な分野の専門家が一つの組織にいると強い、と言われる。しかし筆者によれば、それが機能するためには単なる複数分野の専門家であるだけでは足りないようだ。なぜなら、そうした専門家集団においては、それぞれが自身の専門分野の擁護者となり、潤滑なコミュニケーションが取れずに空中分解するか中途半端な妥協に落ち着いてしまいがちであるからだ。

 では、多様な分野の専門家が組織として機能するためには、よく言われるT字型人材であることが求められる。「T字型」であることは他者とアイディアや文脈を共有するために必要なのである。したがって、単なる複数分野の人材を集めることではなく、異分野での連携ができるT字型人材が集まることが大事なのであろう。

 こうした多様な人材が集まる組織がアイディアについて考え続ければ良いアイディアが出る、ということではない。頭で理想的なものを考えるのではなく、プロトタイプをすぐに製作し、カタチになったものに基づいてフィードバックを得ることが大事である。

 さらに言えば、頭の中で考えるものから得られるフィードバックと、実際にカタチにしてから得られるフィードバックとでは質的な違いがある。頭の中で考えるとアイディアにのめり込むことになる。アイディアに過剰にのめり込んでしまうと、問題があるものもポジティヴに解釈してしまいアイディアを守るための防衛的なフィードバックになってしまうことが多い。

 しかし、プロトタイプを創ると建設的なフィードバックを得られる。なぜなら、一度カタチにすると新たなアイディアを盛り込んで次々と改善するという方向に進むからである。プロトタイプを創って検証すること。仕事の中でも大事にしたい考え方である。

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