現職の某同期からお借りしてGW中に読んだ。私が中高の時分に流行したコミックであるために断片的には読んだことがあったし、陵南との練習試合から山王戦に至るまで全ての試合の結果を読む前から知っていた。
しかし、結果を知っていることと、過程を読んだ上で結果を理解することとは全く異なるものであった。
名作のラストは必ずしも素晴らしいとはかぎらない。クライマックスに至までに期待値が上がりすぎてしまい、ラストが期待外れに終わってしまうという事態はある程度いたしかたないだろう。しかし、本作を読む途中で感じたこうした不安は杞憂に終わり、全ての要素が山王戦の決着に向けて集約させられているようで最後まで惹き付けられた。
最終巻に至っては、余計な言葉は無用とばかりに濃密にして雄弁な画ばかりでそのほとんどが構成されている。これは湘北メンバーの個性が確立しており、それが一つのチームに集約しており、読者に十分に伝わっているからこそできるものであろう。それは、それぞれが抱える過去と、本編を通じて展開される熱戦とが統合されていくものであり、山王戦後の流川と桜木とのハイタッチのシーンは圧巻だ。
それと同時に、本作で印象的だったのは、対戦相手、すなわちその多くの場合は敗者である存在の描き方である。特に、湘北戦に負けた直後の山王の堂本監督の次の言葉にしびれた。
「はいあがろう
「負けたことがある」というのがいつか
大きな財産になる」
上述した通り、台詞を極端に絞り込んだ最終巻にあって、敗戦後に山王の選手や監督が発した台詞はこれだけである。選手はなにも言葉を発さないばかりか、湘北側との接触も一切ない。この台詞にかけた作者の想いが伝わってくるようだ。
早大ラグビー部監督やサントリーの監督を歴任した清宮氏はかつて、敗戦後に「Necessary Loss」という言葉をミーティングで用いたという。「チャンピオンになるために必要な敗戦」という意味合いだ。絶対王者である山王の強さは、真摯に敗北を受容するこうした態度にあるのだろう。そして湘北もまた、陵南との練習試合や海南を相手にした敗北を噛み締めた結果として山王戦の勝利を導き、敗戦を「大きな財産」としたのではないだろうか。
これは、スポーツの世界だけに当てはまる話ではない。人生全般において大事にしたい含蓄の言葉である。
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