2012年1月3日火曜日

【第61回】『だから、僕らはこの働き方を選んだ』(馬場正尊・林厚見・吉里裕也、ダイヤモンド社、2011年)

 フリーランスはもっとサラリーマンの働き方や心構えを意識するべきであると思うし、サラリーマンはもっとフリーランスの働き方や心構えを意識するべきではないか。両者を経験して私はそう思ってきたが、この両者のうまみを統合しようとしているのが、本書の著者たちが働く東京R不動産である。

 東京R不動産の社員の働き方はフリーエージェント・スタイルと呼ばれるものだそうだ。フリーランスとサラリーマンのいいとこどりを実現する働き方、ということである。フリーランスは自律して働き易いが、ともすると短期的なプロジェクト単位で集まって働くことになりがちである。他方、サラリーマンは職務にも同僚にも中長期的な関係性を持ち易いが、働く上での自由裁量の度合いは小さい。こうした両者の良さを合わせることでプロスポーツ選手のような働き方を実現するのがフリーエージェント・スタイルである。つまり、個人が自律的に働いて自己実現を目指しつつ、チームすなわち企業が勝利することを同時に求めるということである。

 こうしたフリーエージェント・スタイルという新たな働き方が、組織とそこで働く個人の有り様を普通の企業のそれと異なるものにしている。

 第一に教育について。東京R不動産ではプログラム化された教育コンテンツやシステムは存在しない。もちろん、同僚からの様々な助言をもらうことはいくらでもできるようになっているが、それぞれからもらうものは多様である。それぞれの人がなかば矛盾するアドバイスを受けることもあるだろう。しかし、同社で働く社員には、同僚間で異なるコメントを消化して、さらに新たな回答を導き出すことが求められるのである。

 第二に会議について。サラリーマンにとって会議とはあまり好まれるものではない。そうであるからこそ、会議に関するビジネス書が流行っているのであろう。フリーエージェント・スタイルにおける会議はこうした無用の長物としての会議とは異なる。個人事業主の集まりであるのだから、無駄な会議は社員の収入を阻害するものとなってしまう。したがって、会を重ねるごとに欠席者が多くなってしまうものについてはやめるそうだ。継続しない理由や会議のあり方をいかに受け容れるかを考えるという東京R不動産の会議の考え方は、普通の企業でも参考になる考え方であろう。

 第三に兼業について。普通の企業では、就業規則で兼業を禁じる何らかの規定があることが通常である。東京R不動産では兼業を禁じないばかりか、むしろ奨励をしている部分があると言う。それはなぜか。兼業することで、同社で働く個々人が多様な人脈を構築し、また専門性を拡げていくことによって成長をする。そうした社員の多様な成長や人脈が、翻って同社のビジネスの進展に繋がる、という考え方である。

 こうした新しい働き方を支えるマインドセットとして、好きという感覚を柔軟に捉える意識が重要であると著者は述べる。その背景にあることは、一生安心できる職務やポジションは存在しない、という現実が挙げられる。そうであるからこそ、自身が世の中に価値を生み出せる人間であることを信じることが個人の精神的な安心につながる。こうしたことを信じるためには、自分自身が常に成長し続け、そのために自己動機付けを行えることも必要であろう。

 とても可能性を感じる新しい働き方であると私も思う。とはいえ、不動産販売の営業職という業種および職種がこうした働き方を実現し易いものであるという側面もあろう。フリーエージェント・スタイルを一つの有効なケースとして、どのような働き方が自社に適しているのかを考え模索していくことが大事なのではないだろうか。

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