2016年4月9日土曜日

【第563回】『キャリア・ドメイン【2回目】』(平野光俊、千倉書房、1999年)

 自身のキャリアに真摯に向き合うためには、他者との対話が重要だ。その対話で得た気づきをたしかなものにするためには、良質な知識で整理することが有効だろう。良質な知識を得るためには、先行研究に基づいた研究の成果がまとめられた学術書を読むに限る。修士の頃から読み続けている本書は、キャリアを考える上で気づきを与えてくれるとともに実務家にとって読み易い、ありがたい学術書の一冊である。

 本書のタイトルでもあり、筆者がキャリアを捉える上で名付けたキャリア・ドメインとは何を指すのか。著者は、「人生全体をひっぱる目標(striving goal)あるいはライフテーマに結びつく、その人独自の(労働市場における)存在領域と使命」(94頁)と定義している。

 ドメインという言葉が使われているのであるから、そこにはある領域とある領域との接点が見出される。多様な自分自身の有り様の結節という観点では、「キャリアの歩みの過程の経験の束を総体的にとらえ」(45頁)るということがキャリア・ドメインの策定には求められる。こうした内部における多様性の統合体としての自身の「キャリアの深層に潜む価値を検討し、他者との関係の調和を図る」(45頁)という自己と他者という接点も見出せるだろう。こうした自身の内部および他者との関係を基にしながら、社内外における労働市場という外的環境との接合を検討することになる。すなわち、「労働市場の環境の分析と自分自身の知識・技能の強みの分析過程からキャリア・ドメインとも呼べる戦略性を見いだすこと」(45頁)である。

 キャリア・ドメインを見出す上で「発達という動態的な組織と個人の相互作用によるダイナミクスが静学的なコンティンジェンシー論に新たな視点」(228頁)を与えることが理論的含意の重要な一つである。人間の有する可能性や多様性へ焦点を当てて、そうした対象を静的ではなく動的なものとして捉えることで、キャリアを生き生きとしたものとして見出すことができる。

 次に実践的含意として、ホワイトカラーにおいても「技能の分化と統合の同時発達が重要」とした上で「多様な経験から得られたコンテキスト関連技能が現在の職務のテーマの中に統合されてこそ意味がある」(235頁)という点に注目したい。日本企業におけるジョブローテーションでは多様な職務の経験を積むことがこれまで重視されてきた。この研究における実践的含意から鑑みると、単に多様な部署や職務を経験することが重要なのではなく、そうした多様な経験を統合して意味づけることが大事なのである。したがって、企業においては、職務設計を行うだけではなく、そこに意味を見出そうとする社員のキャリア・デザインを支援することが必要となる。

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