ドワンゴを設立し、当初は着メロでビジネスを進展させ、2000年代半ばにはニコニコ動画の運営にまで携わった著者。現在は、同社の会長を務めながら、スタジオジブリのプロデューサー「見習い」というユニークなキャリアを持つ方である。
媒体ビジネスを経て、コンテンツビジネスに携わる著者だからこそ、コンテンツについて語る言葉にハッとさせられる。
まずコンテンツにおける情報量という概念を、主観的情報量と客観的情報量とに分けて考えることの重要性を指摘する。主観的情報量とは「人間の脳が認識している情報の量」(50頁)であり、客観的情報量とは「客観的基準で測れる情報の量」(50頁)としている。
私たちの多くは、情報という言葉に対して客観的なイメージを持つ。あえて主観的情報量という言い方をしているところからもわかるように、著者は、主観的情報量の使い方が重要であるとしている。
むしろ人間が現実を学ぶ教材として、現実の代替を務めるのがコンテンツであると考えるなら、少ない客観的情報で多くの主観的情報を提供するのがコンテンツであるということになるのではないでしょうか。(69頁)
「情報が多すぎてごちゃごちゃしている」と否定的に捉えられるコンテンツは、客観的情報が多すぎるのであろう。他方で、情報が複層的で立体的に形成されていると言われる場合には、多様な主観的情報を統合的に形成できているのであろう。
著者は、映画をはじめとした視覚的なコンテンツを対象にして述べているが、おそらくは活字のコンテンツ、つまりは小説やノンフィクションについても同様なのではないか。登場人物が多すぎてメッセージが伝わりづらい作品がある一方で、人物は少ないが関係性が複雑で様々な登場人物に感情移入できる作品もある。
どのようなジャンルであれ、表現する以上は、主観的情報に注意したいものだ。
【第234回】『モバイルミュージアム 行動する博物館』(西野嘉章、平凡社、2012年)
【第161回】『キュレーション 知と感性を揺さぶる力』(長谷川祐子、集英社、2013年)
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