2012年9月22日土曜日

【第110回】『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』(デイナ・ゲイン・ロビンソン&ジェームス・C・ロビンソン、ヒューマンバリュー、2010年)


 本書は、『パフォーマンス・コンサルティング』の原著が改訂されたのに伴い、その改訂版を翻訳したものである。しかし、「Ⅱ」と銘打たれているように、中身の分かり易さや扱われている事例がふんだんである点を考えれば、似て非なるものと言えよう。したがって、これから買われる方はぜひこちらの改訂版を購入することをお勧めしたい。

 パフォーマンス・コンサルティングの最終ゴールとは何か。

 著者は端的に、パフォーマンスに影響する要因間の整合性を取ることとしている。すなわち、事業の目指す姿と現状との差分に現れる事業ニーズ、目指すべき姿を具現化するための行動と現状とのギャップに現れるパフォーマンスニーズ、それらを阻害したり促進したりする要因に現れる職場環境ニーズ、個人が持つスキル・知識・特性といったものに現れる能力ニーズ、の四つのニーズの整合性を取ることである。

 人材育成担当者が解決すべき問題は四つのニーズによって現れるが、そのままではクライエントを動かすことは難しい。クライエントがそれを取り組むべき問題として認識し、解決しようとやる気になってもらうためには、ストーリーとして束ねることが求められる。それはいわば、散らばった点と点を繋げ、星座を描くような作業であるとも形容できるであろう。

 そうした具体的なストーリーを描くためには、まずはクライエントから話を聴き出す必要がある。

 その際の留意点としては、特定のパフォーマンス成果や特定の事業成果について話してもらうように促すことが重要である。抽象的な概念では相手の話しの焦点がぼやけてしまうリスクがある。そうしたリスクが生じることを避けるためにも、個別具体的な特定のものについて聴き出すのである。特定の問題を把握すれば、おのずと特定の解決策が見えてくるものである。

 しかし、相手が最初から本音を語ってくれるということは稀であろう。その前に、相手の信頼を勝ち取ることがパフォーマンス・コンサルティングの実現のためには不可欠である。そのためにどうするか。

 著者は、人材育成担当者は、人事や人材育成に専門的な知識・スキルを持っていることは大前提とした上で、自社のビジネスモデルを理解することの重要性を掲げる。つまり、クライエントが日常的に悩んでいるビジネス上の課題を正しく把握するためには、自社に固有のビジネスモデルを理解しておく必要があるだろう。

 しかし、最初から人材育成担当者が現場のビジネスを精緻に理解しておく必要はない、と著者は救いの手をさしのべている。まずは、クライエントに尋ねれば良いのである。現場における事業運営そのものに対して真摯に理解しようとする態度を持ち続ければ、必要な情報を把握できるだけの信頼性を勝ち取ることができるのである。もちろん、そのためには知識がゼロの状態でインタビューに赴くのではなく、事前に調べられたり確認できたりする情報を把握しておくことは最低限のエチケットであろう。

 人材育成担当者にとって、知恵と勇気を授けてくれる心強い一冊と言えるだろう。

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