2013年11月30日土曜日

【第225回】Number842「W杯出場32カ国を格付する。」(文藝春秋、2013年)

 W杯優勝国の予想に関する本誌のモウリーニョへのインタビュー記事を読み、愕然としてしまった。

 私はスペインは優勝できないと考えている。 最大の理由は、ワールドカップにおける連覇の難しさだ。スペインは2008年ユーロ、2010年ワールドカップ、2012年ユーロと、主要な国際大会で6年間も勝ち続けている。当然、対戦国はスペインに対して分析や研究を行ない、十分な対策をとってくる。サッカーにおいて難しいのは勝つことよりも、勝ち続けることなんだ。(27頁)

 スペインは連覇ができないと断言しているが、彼の論旨には矛盾がある。彼は対戦国が分析や研究をして対策を講じるために主要大会の連覇は難しいとする。しかし、ここでも述べているように、スペインは、現にユーロを連覇しているのだ。対策を講じられようと勝ち続けているのである。W杯を連覇できないという彼の発言には論理矛盾があることは明らかだろう。

 断っておくが、私はモウリーニョのファンである。しかし、それ以上にスペインサッカーへの愛情が強い。自分の願望を否定しようとする方のあら探しはここまでにして、目前に迫ったW杯ブラジル大会を特集した本号から、三つほど興味深い記事を取り上げたい。

 まずは、遠藤保仁選手へのインタビュー記事から。

 今、大事なことは結果がどうあれ自分たちのサッカーを変えずに最後までやり抜く事でしょ。チームが強くなるには、そうして貫いた中でできたこと、良かったことを地道に積み重ねていくしかない。(20頁)

 勝ち試合の後にこうした発言をするのは優等生発言と捉えられ、負け試合の後に述べれば言い訳のように捉えられがちだ。しかし彼は、8月にウルグアイに負けた後も、9月のガーナに勝った後も、そして世界ランク5位のベルギーに勝った11月においても同じ趣旨の発言を繰り返したそうだ。ぶれずに自分自身およびチームのサッカーを信じ続けること。これは仕事でも大事にしたい考え方であり、分野を問わず、プロフェッショナルの言葉には気付かされるものが多い。

 次に、本田圭佑選手の記事を見てみよう。

 勝ったときというのは、良かった点に目を向けるのではなく、悪かったところに意識を向けないと。もう僕は頭の中で分析して、試合が終わってからある程度の整理がついている。(中略)僕だけじゃなくて、全員がそこを意識しないといけない。(23~24頁)

 前半はマインドセットに関して参考になる。「勝って兜の緒を締める」ではないが、勝った時は気分が良いために、他人のフィードバックを素直に聴き、厳しい点に目を向けて改善を行う気持ちの余裕があるものだ。後半では、こうしたことを自分一人ではなく、何を是として何を非とするかをチームとして共有し、同じ理想を描くことの重要性を指摘している。己に打ち勝つ強い個が前提としてありながら、チームとしての成熟度を高める姿勢。今大会の日本代表のサッカーに興味がわいてきた。

 最後に、スペインの強さの分析に関する心地よい記事を扱うこととする。

 どの国も真似できない華麗なパスサッカーで欧州と世界の頂点を極めたチームは、ベースとなる選手や戦術には手をつけず、活きのいい“新人”を加入させて進化を続けている。(52頁)

 戦略やゴールイメージを共有させながら、新しいタレントを少しずつ引き入れて、チームに浸透させる。他国を寄せ付けず、美しくエレガントに勝つサッカーにまた魅了されるブラジル大会が今から待ち遠しい。



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