2015年4月25日土曜日

【第434回】『経営学入門(上)』(榊原清則、日本経済新聞出版社、2002年)

 概念整理ができる書籍は貴重である。ビジネス書の多くは概念を混同したり誤用しているので論外であるし、経営学の学術書では、その研究者の研究領域に比重が置かれるため全体を俯瞰することが難しい。むろん、だからこそ、研究という活動において、私たちは関係のありそうな分野の先行研究を徹底的に行い、自分自身の研究テーマを位置付けるのではある。しかし、そうした過程は、ほんの一部しか学術書という形式でアウトプットされないのだ。だからこそ、本書のような「教科書」としての書籍が貴重なのである。

 組織は意識的に調整された人間活動の集合体ですから、組織のメンバー一人ひとりには、その組織のなかで行うべき仕事があります。その仕事、すなわち「なされるべき仕事」をタスク(task)あるいは課業といいます。そして、タスクがどう関係づけられているか、つまりタスク相互の関係のあり方と、人間活動の調整のためのメカニズムの二つを総称して、組織構造(organization structure)と呼びます。(23頁)

 ここでは課業と組織構造との関係性が為されている。組織全体に通底する考え方ではあるが、企業に勤める身としては、企業で考えるとイメージがわきやすい。こうした課業と組織構造との関係から、組織に関する研究には大きくわけて二つのものがある、と著者は指摘する。

 目標遂行のために組織構造を一定のかたちに特定化したり、既存の組織構造を改変したりすることを組織デザイン(organization design)と呼びます。そして、組織構造と組織デザインを研究する学問領域を、われわれは組織理論(organization theoryあるいはOT)と呼んでいます。(23頁)

 一つめはOTである。これは、組織構造と組織デザインを研究する領域であり、マクロ理論とも呼ばれる組織論の一つの体系である。

 組織を構成しているメンバーの行動に直接的に焦点を当て、個人行動および小集団に固有の現象に関心をよせる研究であり、組織行動論(organizational behaviorあるいはOB)と呼ばれています。これを直観的に組織のミクロ理論と呼ぶ場合もあります。(23頁)

 マクロ理論とも呼ばれる組織理論に対して、ミクロ理論として組織行動論が二つめの体系として指摘されている。こうした組織論の二つの体系の背景には、「組織は戦略に従う」ではないが、密接に戦略論がある。では、戦略とはそもそもどのようなものなのか。

 操作可能な変数のなかで、組織の存続や成長にとってとりわけ重要な変数の画定および修正のことを、組織の戦略(strategy)と呼びます。(29頁)

 有効性と効率性にかかわる組織の基本的意思決定を、戦略(strategy)と呼びます。(35頁)

 二つの捉え方および定義が上記では為されている。まとめれば、「組織の存続や成長にとってとりわけ重要な変数の画定および修正」のために行われる「有効性と効率性にかかわる組織の基本的意思決定」が戦略である、ということであろうか。このように捉えられる戦略に関して、著者は、三つに分けて定義づけている。

①ドメイン戦略ーーすなわち環境との相互作用をどういう範囲で行うか
②資源戦略ーーすなわち独自能力としての経営資源をいかに獲得・蓄積・配分するか
③競争戦略ーーすなわち競合者に対してどういう独自ポジションを展開するか(37頁)

 最後に、HRの実務的な観点から興味深かった点を以下に引用する。

 組織を構成するその諸部分の異質性や多様性を一般に組織の複雑性(complexity)といいます。これは、次元でいうと「単純ー複雑」の次元です。(103頁)

 もともと複雑性とは、作業の効率を高めることをねらって、職能を細分化する結果生まれる構造的特徴です。その場合、細分化された職能を個別にみると内容は単純になりますが、その半面、組織構造は複雑化します。組織構造の複雑化は、その必然的結果として管理上の問題を発生させ、効率を阻害する側面をもちます。要するに、一方で職能の単純化を進めれば、同時に他方で組織構造は複雑化するーーこれは組織が直面する基本的ジレンマの一つです。(106~107頁)


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