2015年2月8日日曜日

【第412回】『ホワイト企業』(高橋俊介、PHP研究所、2013年)

 人事・人材育成のコンサルタントである著者の近著。最近の日本企業における人事・人材育成の課題のトレンドを、大括りに把捉する上で適したテクストの一冊であろう。

 とくにキャリア初期の二十代においては、働きやすさ以上に働きがいが重要なのです。働きやすさは、企業の人事制度や離職率など客観的情報で測りやすいため、世の中にはこちらに偏ったランキングが出やすいのですが、ほんとうの意味での働きがいはそういう外形的基準では測れません。
 真のホワイト企業とは、若者を成長させ、変化の激しい時代において雇用の質を向上させる企業であり、そのような企業が、組織としてどんなことに取り組んでいるのか、それを重視しなければ浮かび上がってはこないのです。(21頁)

 働きやすさよりも働きがいを重視する、という著者の主張に同意する。粗い言い方になるが、ハーズバーグの二要因理論を用いれば、働きやすさは衛生要因に対応し、働きがいは動機付け要因に対応する。したがって、働きやすさをケアしている企業であっても、働く社員の不満足要因は解消できても、満足要因に寄与することはできない。換言すれば、企業における社員の成長や幸福に貢献するためには、人事として、働きがいに焦点を当てる必要がある。とりわけ、若手社員が育つことが難しいと言われる近時における職場環境においては、働きがいを重視した施策の重要性が増していると言えるだろう。ではどのようにすれば、若手社員の働きがいをケアし、人が育つ企業になることができるのか。

 もちろん、成果主義のやり方にもよりますが、成果主義が人材育成力を低下させた、だから能力評価に戻すべきだという簡単な問題ではありません。とくに日本での能力評価には注意が必要。能力主義と称して評価を客観化しようとして、表面的スキルに偏ることが、現代の功利性が高い若者の、いわゆる丸暗記正解主義的な思考を強化してしまう危険性があります。(48~49頁)

 ここでは、一つの側面として人事制度を取りあげている。著者によれば、2000年代前半の業績主義的な運用を行なった「成果主義」の失敗が、企業の人材育成にネガティヴな影響を与えたわけではないという。むしろ、そうした反動から、成果ではなく能力を評価しようとして能力を客観化するために、資格やスキルを評価する傾向に警鐘を鳴らす。資格やスキルといった表面的な能力を企業が評価すると、功利主義的な傾向の強い学生の「丸暗記正解主義的な思考」ばかりを強化してしまう。その結果、変化の激しい状況下で多様なステイクホルダーをダイナミックに巻き込みながらビジネスを進めるという、現代のビジネスに必要な能力を身につけられない社員が増えてしまう。これは、企業にとっても、若手社員にとっても、不幸な帰結であろう。

 私は以前から主張していますが、ピラミッド組織の反対概念は、フラット組織ではなく、自律組織です。フラット組織について議論する人たちは、組織階層の数や意思決定のスピードに注目しがちですが、一番大事なことはそこではありません。
 「個別性」が高い「顧客接点サービス業務」から「高付加価値業務」まですべてにおいて、意思決定の中心は顧客接点でなければなりません。(中略)
 つまり、「個別性」への対応が第一線の人材育成の大きなテーマなのです。仕事のサイクルの”What-How-Do-Check”を、大きな組織の階層で分業するのではなく、第一線で自律的にまわる自律組織こそが求められています。(95~96頁)

 人が育つ企業とは自律組織である、と著者はここで鮮明に宣言している。著者は、ビジネス構造の変化というトレンドをもとにして、サービス業を念頭に述べているが、顧客接点を重視するという意味ではメーカーでも同様であろう。では、自律組織において、一人ひとりの社員はどのように成長していくことが求められるのであろうか。

 プロフェッショナル型の場合は、「専門性」を基礎と理論からしっかり学ぶことも重要。OJTによって先輩・上司の背中を見て学ぶだけでは、プロフェッショナルとしては不十分なのです。プロは徒弟制度で育つと思われるかもしれませんが、基礎と理論、歴史的背景などからしっかり学んでいかないと、応用力のあるプロにはなれません。
 基本としては、みずから学びつづけ、変化する環境に対応していく。内省に基づくキャリアを切り拓く。そういった習慣を身につけるべきです。(127頁)

 ここで重要なのは、業務での経験を内省的に振り返るだけではなく、基礎や理論といった業務外の知識を随時アップデートしながら学び続けるという点であろう。経験から学ぶとともに、理論や知識を学ぶこと。多様な学びの経験を習慣化することが、変化の激しいビジネス環境の中で、自身にとっての顧客への貢献を成し遂げられる道なのではないだろうか。


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