2015年2月28日土曜日

【第417回】『察知力』(中村俊輔、幻冬舎、2008年)

 一流のプロフェッショナルの言葉から学ぶことは多い。とりわけ、アスリートの場合には、そのプレイの様子をイメージとして想像することができるため、学び取れるものがよりゆたかであるように思える。本書を読んで印象的であったのは、著者の「考える」という姿勢が、中田英寿さん(『In His Times 中田英寿という時代』(増島みどり、光文社、2007年))といみじくも同じものであるという点である。では、サッカーにおいて「考える」とは何を意味するのか。著者の言葉を紐解きながら、考えてみたい。

 体験しただけじゃ引き出しは増えない。その体験を未来にどう活かすか、足りないことを補い、できたことをもっと磨く。そういう意識がなければ引き出しは生まれない。体験は引き出しを増やすきっかけでしかない。(62頁)

 何であっても体験することが大事であると言われる。また、頭で考えるよりも体験することの重要性が指摘されることも多い。これらはどれも間違ったことではないのであろうが、著者が指摘するように、そこから何を見出すかという視点がなければ、引き出しを増やすことにはならないことに留意したいものだ。

 仲間とともに積み重ねる時間が、いろんな問題を解決してくれることもあるだろうけれど、自分から望む方向へ状況を仕向けることも重要だ。しかも良好な関係を維持しながら、と考えれば、相手を知り、理解したうえで、自分自身が工夫しなければいけない。(116頁)

 次に、対人関係を視野に入れて著者は鋭い指摘を行なっている。つまり、他者を理解しようとすることと、それに伴って他者との比較によって自分自身を理解すること。こうした他者理解と自己理解によって、自分自身がどのように行動するかを考え抜くこと。こうすることが、自分のためにもなるし、他者のためにもなるのであろう。それはすなわち、スポーツで考えればチームが強くなることであり、ビジネスで考えれば企業組織が強くなることに繋がるのではないか。


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