控訴審での勝利と学術会議選挙での当選という二兎を追う財前。あくの強さで押し切ろうとする姿勢には驚かされるばかりであると同時に、なぜか憎むような気持ちにはなれない。崇高な目的意識というものが弱いとしても、目の前の他者や目標に対して強い意志で取り組もうとする気持ちに、なにか惹かれるものがあるのかもしれない。
しかし、そうした財前の強い気持ちに影が差し始めるのがこの四巻である。結論を知っているために穿って読んでしまう部分もあるのだが、以下の部分が印象的だ。
森閑とした静けさの中で、財前はひどく疲れている自分を感じた。一体、何が自分をこう疲れさせるのだろうか。(449頁)
悲劇的かつ感動的な最終巻のラストに向けた、終わりの始まりである。
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