本書のような良質な学術書を読むと、インプットとして概念を整理できるので心地よい気持ちになる。しかしそれと同時に、自分自身のアウトプットとのギャップを感じて落胆する気持ちもある。アンビバレントな感情を持つのもたまにはいいものだ、とここでは肯定的に捉えてみよう。
本書の論旨は明快であり、タマノイ酢の事例と公共哲学の知見から「関わりあう職場が支援と勤勉と創意工夫を職場のメンバーに促す」(2頁)という基本仮説を構築し、探索的アプローチで実証研究を行ってそれを結論づけている。「支援」「勤勉」「創意工夫」という三つの概念は、ともするとお互いに反比例関係を持つものと思われるが、決してそうではなく、職場における関わり合いがそれぞれに良い影響を与えることを示していることが重要な点であろう。
それと同時に、三つの概念がバランス良くあることが重要であり、どれかが特筆して高くなることは不健全な状況に陥る可能性があることには注意したい。著者は、それを逆転共生というキーワードで端的に示している。
逆転共生という考え方を踏まえれば、自律的に創意工夫する行動と助けあい秩序を維持するような行動は、一定以上の強さまではこのように相互に強化しあう関係であるが、一定以上になると(調査からは明らかにはされなかったが)相互に打ち消しあう逆転共生の関係になると考えられる。(215頁)
調査では必ずしも明らかにならなかったにも関わらず、ここまで主張される点に私たちは傾聴するべきだろう。というのも、実務的には極めて納得的な内容であるからだ。たとえば、助けあいを過剰に重んじる組織では、ある個人が行う自律的・自主的な行動を「出る杭」として否定する風土に転じかねない。こうなってしまうと、助けあいが強すぎることで、自律的な創意工夫が阻害されるという現象になってしまう。
こうした逆転共生を前提に考えた場合、どのようにバランスを考えれば良いのか。ここで興味深いのは、助けあいを構成する概念である仕事の相互依存性と目標の相互依存性が主観的なものを前提にしていることである。したがって、マネジャーは「関わりあいの強さを職場のメンバーのそれぞれに意識させることも有効なマネジメントである」(222頁)ことを留意することが大事になるだろう。
関わりあう職場を構築していくためにマネジャーの担う役割は大きい。しかし、多忙を極めるマネジャーにその責任を押し付けることは酷であるし、現実的ではない。マネジャーも含めた職場全体で自律的にケアすることが求められるし、そうした職場を醸成することをHRが支援することが求められるのではないか。企業組織にとっての可能性が提示される書であるとともに、襟を正させられる書でもあった。
【第146回】『関わりあう職場のマネジメント』(鈴木竜太、有斐閣、2013年)
【第147回】『組織と個人 キャリアの発達と組織コミットメントの変化』(鈴木竜太、白桃書房、2002年)
【第151回】『自律する組織人』(鈴木竜太、生産性出版、2007年)
【第147回】『組織と個人 キャリアの発達と組織コミットメントの変化』(鈴木竜太、白桃書房、2002年)
【第151回】『自律する組織人』(鈴木竜太、生産性出版、2007年)
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