2016年7月23日土曜日

【第599回】『振り子の法則』(ヴァジム・ゼランド、須貝正浩訳、徳間書店、2006年)

 いわゆる自己啓発と呼ばれる書籍では、何か響くものが一つでもあると心地よい気分になる。それは、目新しい何かを見つけるというよりも、実感していても言語化しづらいものをシンプルに言い表してくれるものなのではないか。

 振り子の主な目的は、なるべく多くの信奉者を引き込み、彼らからエネルギーをもらうことにある。もしあなたが振り子を無視したら、振り子はあなたをそっとしておき、ほかの者に標的を切り替える。なぜなら、振り子は、自分のゲームを受け入れてくれる、つまり振り子の周波数で放射してくれる者によってゆれ動くからである。(98頁)

 本書を読んで興味深く感じたのは、振り子というアナロジーである。私たちは何かを信じたり、何かを強く批判したりする。この両極端の二つは表裏一体の関係にあり、振り子の法則に則った言動であると著者はする。つまり、一つのものに対して強くコミットすると、それに同調しない人や事象に対して反発心を覚える。何かにコミットすることは、何かからディタッチすることなのである。そして、特定のものにコミットすることでコミットの質と量が増していき、それに反するものへの反発心もまた強くなり続ける。

 振り子は、こうした人々のエネルギーを吸い取る対象であり、エネルギーをもとに大きくなり続けるという。その最たる例が、戦争、紛争、テロリズムといったものであることは想像に難くない。振り子の法則に基づく負の連鎖をどのように止めることができるのか。それは必ずしも容易なことではないが、著者はヒントを示している。

 振り子を穏やかに沈静化するための興味深い方法がもう一つある。誰かがあなたをいらだたせているとしよう。つまり、あなたにとって問題となっている。そんな時、その人に何が不足しているんのか、その人が何を求めているのか、突き止めてみるというのがその方法だ。では、ここで、何かが不足している人をイメージしてみよう。それは、ひょっとすると、健康、自信、心の平穏かも知れない。考えてみるまでもなく、この三つは自分が満たされていると感じるために必要な基本的な要素である。あなたをいらだたせている人が、その瞬間、本当は何を必要としているのかを考えてみよう。(107頁)

 発想の起点を、自分自身から他者に置くこと。そうすると、自分自身の苛立ちの感情ではなく、他者のニーズに意識が向くことになる。他者の視点に立とうとすることで、自身を俯瞰してみることができて落ち着くことができ、他者のニーズにどのように貢献できるのかという発想につながる。そうすると、もともと、自分自身が苛立っていたものは、自分自身が作り出した振り子の法則によるものであったと気づくきっかけになるのではないだろうか。


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