2016年7月30日土曜日

【第601回】『孫子に経営を読む』(伊丹敬之、日本経済新聞出版社、2014年)

 企業の戦略論で有名な著者が、孫子を紐解きながら経営戦略について解説を行う意欲的な一冊である。大家による解説はさすがであり、孫子との関連性に唸らさせられる。

 経営、戦略、戦い、スピードといったテーマがある中で、リーダーシップについて考えさせられるところが大きかった。リーダーシップという概念は、ビジョンを描き、周囲を巻き込むという意味合いが強い。しかし、孫子が述べるリーダーシップでは、視野が鍵概念として提示されている。

 視野狭窄になるからこそ、相手につけ込まれるポイントが視野の外にでてしまって、見えなくなるのである。とすると、現場の指揮官を視野狭窄に導いてしまう危険因子は他にないかを考えたくなる。たとえば、欲の深い人は、その欲に目がくらんで視野狭窄になりそうである。
 しかし、欲深の危険を考えると、孫子が廉潔でも視野狭窄になりやすいといっていることの深さが見えてくる。欲深の危険は、そこを敵につけ込まれようとつけ込まれまいと、危険因子である。(80~81頁)

 視野が狭くなることで、よくない結果を導くということは自明であろう。では、なぜ視野が狭くなってしまうのか、を考えることが大事である。孫子をもとに著者が述べているのは、欲深が原因であるとしているが、これも自明に思える。興味深いのは、欲深の理由として、清廉潔白という一見すると素晴らしいとされる性格を挙げている点であろう。つまりは、どのような内容であれ、固執しすぎてしまい、柔軟性に欠ける要素があれば、その善悪は問わず、欲深の原因となり、そこに視野が固定されてしまう。その結果として、周囲に目を向けることが難しくなり、視野狭窄を起こしてしまう。

 人間の長所のすぐ横に落とし穴が広がっている、あるいは短所が存在する、というのは、将に限らず、多くの事象で観察されることである。長所だと思うから、それを伸ばそうとする。それはそれでいいのだが、その行動の副作用に気がつかないのが人間の常なのである。(81頁)

 長所に焦点を当てるというのは、ドラッカーも述べていることであり、マネジメントの原則とも言える。もちろん現実のある側面を正しく描写しているのであろうが、その結果として生じる副作用を意識し、それをケアすること。自身が意識して行うことであるとともに、マネジャーが部下の強みとその周囲にある弱みを自覚することをサポートすることが重要であろう。


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