2016年8月27日土曜日

【第612回】『人間に格はない』(玄田有史、ミネルヴァ、2010年)

 労働経済学という観点から日本の現代の雇用について示唆的な論考を世に出し続ける著者による大部。「格差」という概念定義から丹念に探究する意欲作である。

 以下では労働時間を扱った第7章を取り上げる。

 本章の重要な発見として、2000年代初頭には、勤続10年未満の就業者ほど長時間労働化する傾向が、以前に比べて強まっていたことがあげられる。1990年代から2000年代初めに正社員の採用条件として、一部の企業のあいだで広まった「即戦力」志向という風潮は、長時間労働を厭わない人々を企業が求める傾向の強まりを意味していたことを、その結果は示唆している。(228頁)

 日本企業における長時間労働は以前から指摘されてきた。しかし、2000年代初頭からの傾向として、そうした長時間労働の担い手の若手化が進んできたという。この若手社員の長時間労働の背景には、企業側からの早期戦力化が求められてきたという要因が影響している。

 さらに入社2年以上5年未満といった短期勤続層では、長時間労働に直面した場合に離転職を希望しやすいことも確認された。短期勤続層への週60時間以上労働の広がりは、入社後まもない人々の離転職希望の増加につながった。なかでも1990年代後半以降、転職希望の理由として、時間的・肉体的負担の大きさを挙げる傾向が、勤続年数2年未満の長時間労働者の間で強まった。長時間労働に伴う業務負担の高まりが、短期勤続層の離転職の背景にあったことを、そこからはうかがえる。(228頁)

 さらに、入社2~5年の社員に限定すれば、週60時間以上の労働が離転職を希望する傾向を強めたようだ。入社から年が経たない若手社員にとっての長時間労働に、企業は十分にケアする必要があることは間違いがない。もっと言えば、2010年代以降の入社者は、長時間労働どころか残業自体を嫌う傾向が強い。それを念頭に置けば、より長時間労働へ留意する必要があるだろう。


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