2018年6月17日日曜日

【第846回】『ビギナーズ 日本の思想 新版 南洲翁遺訓』(猪飼隆明訳・解説、KADOKAWA、2017年)


 今年のNHK大河ドラマ「西郷どん」を観ていて、西郷隆盛という人物の考え方を改めて学んでみたいと思った。『南洲翁遺訓』はかつて読んだが、今ひとつ理解しきれなかったので、まずは入門書を読もうと方向転換した次第である。

 解説がふんだんにあるという書籍は、入門書としてありがたい。もちろん、苦労しながら原文および訳文のみを読み進めることで学べるものは多いだろう。しかし、最初の入り口としては、入門書でカジュアルに学べるのはいいものだ。

 官は、その職にふさわしい(任に堪えうる)人物を選んでその職に就け、功労があるものには、職ではなく、俸禄を与えて賞し、これを褒めておけばいい(17頁「一 徳懋んなるは官を懋にし、功懋んなるは賞を懋んにする」)

 人事を担当する身として、心したい至言である。私たちはともすると、パフォーマンスが優れた人物を評価する際に、報酬面で報いるだけではなくポジションも変えてしまう。もっといえば、ポジションとリウォードが連動しすぎていると、ポジションを安易に上げてしまいがちだ。

 しかし、ポジションを上げることには十分に留意しなければならない。その人物自体に対するインパクトのみならず、その人物が管理監督するチームにも大きな影響を与えるからである。だからこそ、職ではなく俸禄を与える、というシンプルな西郷の言葉を私たちはよく噛み締めなければならない。

 学問を志すものは、広く学ぶという心がけが必要である。だからといって、広く広くとばかりこだわっていると、あるいは身を修めるのがおろそかになりかねない。だから、つねに自分に克ち、身を修めるよう心がけなければならない。広く学びつつ自分に克地、真の男子たるものは、人を許しても、人に許してもらおうなどと甘えた心を持ってはならない、自分に甘えないということが重要なのだ。(131~132頁「二三 終始己れに克ちて身を修する也」)

 学びを閉ざさず、オープンにすること。その上で、自分自身で謙虚に内省すること。重たい指摘である。

【第446回】『代表的日本人』(内村鑑三、鈴木範久訳、岩波書店、1995年)
【第644回】『「明治」という国家(上)』(司馬遼太郎、日本放送出版協会、1994年)

0 件のコメント:

コメントを投稿