2014年1月13日月曜日

【第241回】『いかにして問題をとくか』(G・ポリア、柿内賢信訳、丸善出版、1954年)

 高校までに学ぶ教科のうちで最もつぶしが利くものは数学ではなかったか。少なくとも私にはそう思えるし、数学が好きであったからこそ、他の科目への応用ができたことに感謝をしている。本書では、数学者である著者が、数学を学ぶこと、数学で問題を解くこと、数学を教えること、といった点を述べている。

 教師の最大の義務は、学生に数学の問題がお互に何等の関係がないものであるように思わせたり、又それが他の事柄と無関係であるなどと考えさせないようにすることである。解答を振り返ってみることは問題の間の関連を調べるのに絶好の機会である。学生が解答をふり返ってみて真面目に努力した揚句、成功したと思えばそれに興味を感ずるようになるであろう。そうして何か他のことが同じような努力でできないか、又いつか別の時にうまく成功しないだろうかを熱心に追求するようになるだろう。教師は同じ手続や結果を再び利用することができるように学生を力づけることが必要である。その結果や方法を何か他の問題に利用する事ができるか。(19~20頁)

 点と点が繋がるのは面白い。こうした関連性をいかに学生に感じさせ、数学への興味をいかに感じさせるか。教える立場にある身にとって的を射たアドバイスであり、またそうであるが故に耳が痛いものでもある。さらに著者は、正解に辿りついた後に、その過程を振り返らせることの意義を述べている。ともすると学生は、うまくいくかいかないかという結果にばかり目がいってしまう。そうした結果志向をいかに過程志向に視点の転換を促すかが、教える側に求められるのである。

 分解と結合とは大切な心の働きである。人間はその興味をそそり好奇心をそそるような事物を調べようとする。(中略)はじめその事物の全体的な印象がえられたとしても、その印象はおそらく充分なものではないであろう。やがて細部に気がついてそれに注意を集注し、やがて又他の細部へ移って行く。それらの細部の間にはいろいろの組合せが行われ、もう一度事物を全体として見直した時には、前とは違った見方をするようになるであろう。すなわち始めは全体を部分に分解し、それから前とは多少ちがった全体に結合するのである。もしも最初からあまり細部に気をとられすぎると目標を失ってしまうことになろう。あまり多くのことがらや細部のことがらは心の重荷である。それは重点を見失わせる原因になる。目前の木のために森を見ることができない人を想像するとよい。(44頁)

 全体を眺めることと、細部に集中すること。問題を解く際には、どうしてもその作成者が用意した範囲の中、すなわち細部に意識を集中しがちである。そのような際に、問題だけに意識を向けるのではなく、その背景や隣接する地域に目を向けることが大事なのである。背景や隣接領域に意識を向けることが、視野を広げることにつながり、また物事を抽象化して適用範囲を広げることになる。

 もしも目的が定まればそれにしがみつくことは必要であるが、しかしそれが不当にむずかしいものであってはならない。わずかの成功でもあれば満足すべきであって、与えられた問題がとけなかったならば、何かそれに似た問題をとこうとつとめるべきである。(107頁)

 問題が解けないとき、つまり困難にぶつかったときの心構えとして含蓄のある言葉である。解けないものを解けないものとしてあきらめるのではない。しかし、正面から挑んだあとには、それを側面から眺めたり、上から眺めてみる。そうすることで問題の輪郭をおぼろげながら理解し、それに類似する問題に取り組んだ過去の経験を省みることができる。その結果として他の引き出しを見つけられるのであろう。

 いま解かなければならない問題をすでに一度といたことか、聞いたことがある場合がある。あるいは非常によく似た問題をしっていることがある。これを見逃すべきではない。それをよく思い出さなければなんらない。前にそれをみたことはないか。ちょっとちがった形で同じ問題にであったことはないか。たとえそういう経験がなくても、そういう問いはもっている知識を動員させる役に立つであろう。(138~139頁)

 困難な問題に直面した際には類似した問題を思い返すことが第一である。それに加えて、たとえ類似した問題を思い返すことができなかったとしても、過去を振り返る事自体が、自分自身の知識を動員し、再整理すること。そうしたプロセスを経ることに意義があるとしている点に留意するべきであろう。

 よい摸倣の手本を見出すべきである。よい先生を学ぶべきであり、有能な友人と競争すべきである。何よりも大事なことは普通の教科書をよむばかりでなく、自分が本当に摸倣しようと思う著者をさがすためによい本をよむことである。彼は単純で、示唆にとみ、美しいと思われることを求めてそれを楽しむべきであり、問題をとき、自分のゆき方にかなった問題をえらび、その解答につき思いめぐらし、新しい問題をつくらなければならない。このようにして彼の最初の発見をするように心掛け、自分の好み、自分の行き方を見出すべきである。(140頁)

 良き師、良き友人、良き書と付き合うこと。いま直面している問題への取り組みだけではなく、自分の価値観や方向性を見出すことに繋がる。

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