2015年12月23日水曜日

【第529回】『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 詩経・楚辞』(牧角悦子、角川書店、2012年)

 四書五経の一つである詩経。その詩経と並び称される古典的詩集である楚辞。その二冊の入門書として最適な一冊である。

 儒教とは、人と人との繋がりを大切にする教えです。子が親を敬うという孝の意識を中心に据えて、それを家族から村へ、村から国、そして天下国家に及ぼすことによって、理想の社会を築こうとする教えです。人と人との繋がりを大切にするためには、規範が必要です。目上の者を敬いましょう、嘘をついてはいけません、礼儀正しく振舞いましょう、などなどの規範を、これらの経典が提供することになります。詩は『詩経』として経典になった時点で、道徳規範の教科書になっていくのです。(18~19頁)

 なぜ詩集が四書五経という中国の文化の要諦を為すテクストの一冊として挙げられるのか。そうしたビギナーが抱く疑問に端的に回答したのが上記の部分であろう。詩経では、様々な人と人の関わり合いが描かれる。そうしたものの描き方は、人と人との繋がりを大切にする儒教の教えと通底したものなのであろう。

 以下では、最も印象的であった詩を一篇だけ紹介してみることとする。

 蟋蟀 堂に在り
 役車 其れ休めり
 今 我れ楽しまざれば
 日月 其れ慆ぎん
 已だ大いに康しむ無く
 職めて其の憂を思え
 楽を好むも荒むこと無かれ
 良士は休休たり(94〜95頁 唐風「蟋蟀」より)

 ゆったりとくつろぐことの重要性を説いている詩である。とはいえ、今をたのしめと言っているかと思えば、度を過ぎてたのしむことを諌めて将来の心配をすることも同時に述べている。いたく考えさせられるとともに、どこか心がゆったりとする詩だ。


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