2016年12月10日土曜日

【第652回】『茨木のり子詩集』(谷川俊太郎選、岩波書店、2014年)

 言葉を大事にしたいのならば詩集を読め、と以前言われたことがある。何冊か読んだが、なかなか定着せず、数年間、詩から遠ざかってしまっていた。お勧めを受けて本書を読んでみて、茨木さんの言葉遣いに感じ入った。美しい日本語や感性に触れると、気持ちが清々しくなる。

 人に伝えようとすれば
 あまりに平凡すぎて
 けっして伝わってはゆかないだろう
 その人の気圧のなかでしか
 生きられぬ言葉もある(「言いたくない言葉」より(142~143頁))

 言葉は文脈の中で生きる言葉である。ある部分を意図的に抜き取ることは、その言葉を紡ぎ出した人の意思に反することになりかねない。上記のような引用をする時に私自身も留意しているつもりであるが、身が引き締まる思いがする。

 不惑をすぎて 愕然となる
 持てる知識の曖昧さ いい加減さ 身の浮薄!
 ようやく九九を覚えたばかりの
 わたしの幼時にそっくりな甥に
 それらしきこと伝えたいと ふりかえりながら
 言葉 はた と躓き 黙りこむ(「知」より(163頁))


 軽々に何かを知っているということに気をつけたい。自分自身が認識したり知覚しているものを言葉にすることで、何かが抜け落ちる。そうした覚悟を持った上で、言葉にすること。だからこそ、自分が発する言葉を大事にしたい。

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