2016年12月17日土曜日

【第654回】『峠(中)』(司馬遼太郎、新潮社、2003年)

 大政奉還後の諸藩の混乱。官軍としての薩長土と、賊軍としての徳川および佐幕派という分かりやすい構図を後世の私たちは描く。しかし、当時を生きた各藩の人々には難解で、決断を下しづらい状況であったのだろう。

 混沌とした環境において河井継之助がどのように情報を収集し、どのような決断を下し、どのように組織を動かしたか。薩長にも佐幕にも距離を保ち、いかにして自藩を存続させるための彼の生き様には魅せられる。

 よき孔孟の徒ほど、老荘の世界への強烈な憧憬者さ。しかし一生、そういう結構な暮しに至りつけないがね(158頁)


 継之助が独り言のように呟く言葉である。論語好きな身として、とてもよく分かる一言だ。私自身、老子も好きでよく読み返すが、より読み返すのは論語であり、論語をより身近に感じる。そうであっても、老荘が描く世界観への憧れや、理想像としての魅力はよく分かる。


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