著者の質的研究に関する書籍は、修士時代の私にとってバイブルだった。その著者が、3・11後の復興に向けたボランティア活動に取り組んでいることを知った時は意外な気がした。糸井重里さんの「ほぼ日」でその活動の概要は知っていたが、内容を詳らかに語る本書は、興味深かった。
多くの場合、一度利権を得た組織は、それを維持すること自体が目的となってしまう。
しかし、「なくなることが目的」という理念をチームに浸透させることにより、目的と状況を勘案して必要なくなったと判断したプロジェクトはすみやかに解体し、理念に沿った意思決定をすることが可能になったのだ。(50頁)
ボランティア組織であっても、組織ができあがると、そこに生まれる利権を守ろうというインセンティヴが働くという。そうした利権を守ることが目的化することで、当初の目的から離れるリスクがある。こうしたダイナミクスは、営利組織と変わらないものなのであろう。そうであるからこそ、ボランティア組織でこそできる「なくなることが目的」という理念は目から鱗である。
リーダーは、パフォーマンスに直結する「能力」は考慮しても、「関心」は見落としやすい。しかし、まったく関心のない仕事は、当人の心を徐々に、あるいは急速に消耗、疲弊させる。(153頁)
”適材適所の本質”とは、さしあたり「関心と能力を踏まえながら、それに適合する仕事や役職を与えること」と言える。(155頁)
心して読みたい箇所である。人を導くという意味でのリーダーという存在は、能力を周囲に期待してしまう。能力がなければ、仕事を安心して任せることができないからである。しかし、継続的に意欲を持って働いてもらうためには、その人の関心にあったものであることが必要であると著者は述べる。したがって、適材適所を実現するためには、人の関心と能力とを踏まえるべきという指摘に傾聴するべきだろう。
「一番やりたい仕事」だけにとらわれると現実的にはマネジメントできなくなるため、「人間は多様な関心を持っている」ということを念頭に置く必要がある。(156~157頁)
関心に合わせるということは、必ずしも人の表面的な希望に合わせて、その人が主張するやりたい仕事をアサインしなければいけないということではない。人が本来的に持つ多様な関心というものに焦点を当てて、工夫して職務をアサインするという発想は、現実的であり大変興味深い考え方である。
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