Facebookを日常的にたのしみ、同社のNo.2であるサンドバーグの『LEAN IN』を読んで感銘を受けたのに、ザッカーバーグに関する書籍を読んでいないのは盲点だった。ジョブズやベゾスの伝記を読んだ時に感じたのと同じような躍動感をおぼえながら読み進めた。自分自身がなろうとは思わないし、なれるとも到底思えないが、スタートアップの経営者というものは面白い。
MacBook AirでBloggerをつけてTwitterやFacebookで発信し、AmazonのiPhoneアプリで買い物を済ませて、FacebookやLinkedInで「ともだち」と情報共有する。このような生活が日常になった現代において、アメリカのITベンチャーや企業を論じた書籍に多くの人が興味を持つのは当たり前なのかもしれない。情報「技術」を論じられるだけではなく、情報「社会」という私たちの近い将来のありようを想像できるのだから。
「われわれの会社はガスや水道と同様の公益事業です」
と彼は慎重に言葉を選びながらこの上なく真剣な口調で言った。
「われわれは人々が世界を理解する方法をより効果的なものにしようと試みています。われわれの目的はサイトの滞留時間を最大にすることではない。われわれのサイトを訪問している時間を最大限に有意義なものにしようと努力しているんです」(1頁)
2006年の夏、つまりFacebookが前途有望なITベンチャー程度の存在であった時代に、ザッカーバーグが著者に語った言葉だそうだ。Facebookが人々の生活のインフラになるというミッションに向けて、彼はビジネスを進めていたのである。では、学部生の時からFacebookの事業を始めた彼が、理念に向けてどのように事業を継続して組織をマネジメントするところにまで至ったのか。
彼はこうして大勢の企業トップに会うことを自分の学習の一部だと考えており、スタッフにいちいち意図を説明する必要を認めていなかった。(236頁)
謙虚に先達から学んだのである。トップとして、ビジネスをどのように考えるか、社会に対する貢献をどのように定義するか。こうしたことを学ぶためには、近しい経験を積んでいたり、同じような立ち位置にいる人物に聴くことが有効であろうが、「学習」と割り切ってできるものではなかなかないだろう。他方で、こうした学習行動が、大手IT企業や投資家に自社を身売りしようとしているのではないかと社員から疑念の目を向けられることになってしまったという。それに対するザッカーバーグのバックアップ行動が素晴らしい。
その後数週間の間に、リードはザッカーバーグがはっきりと変わったのに気づいた。ザッカーバーグは、事実、効果的な企業リーダーとなる術を教えるコーチに付いて、レッスンを受け始めた。さらに幹部たちと一対一で話し合う時間をつくるようになった。リードにどやしつけられた翌週、ザッカーバーグはフェイスブックで初めての全社員ミーティングを招集した。(240頁)
急速に事業が成長して多忙な中でかつ高揚している状況の中で、周囲の人物からの箴言を聞き入れた点がまずすごい。そして、箴言の理を理解してからすぐに愚直に行動している点も驚くべきだ。リーダーには、こうした素直さが大事なのかもしれないと改めて感じた。
「こんなことを言うと心配するかもしれないが」と彼は言った。
「ぼくは、仕事を通じて学んでいるんだ」(288頁)
生涯学習というきれいな言葉しか思いつかないが、彼の謙虚さや素直さは、仕事を通じて学ぶという姿勢が根本にあるようだ。学習と仕事とを結びつけること。これが、ゆたかに働くとともに、信念を持ってゆたかに生きるということなのかもしれない。
聞いて聞いて聞きまくって、ある段階まで来ると、これで行くしかないと自分で結論をだす(454頁)
初期のFacebookの盟友であり現在でもザッカーバーグと親交を持ち続けるショーン・パーカーが彼を評した言葉である。とにかく聴くが最後に自分で決断を下すというところが、沈思黙考タイプのリーダーのあるべき姿の一つのように思える。
【第67回】“Steve Jobs”, Walter Isaacson, Simon & Schuster, 2011
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