2017年3月11日土曜日

【第686回】『人事よ、ススメ!』(中原淳編著、碩学舎、2015年)

 慶應丸の内シティキャンパスの人気講座である「ラーニングイノベーション論」を文書化するという贅沢な試みによって編まれた力作。様々なプロフェッショナルの講義やセッションの様子を垣間見ながら、企業で人事・人材育成を担う私たちが学びを深めることができる貴重な一冊であると言えるだろう。

 私が特に興味深いと感じたのはOJTに関するポイントである。まずはスターバックスの事例について見てみよう。

 たった3週間だったのですが、お店の中でいろんな形でパートナーの行動を強化し、ミッションを実体験と語りで体得させていくのです。これこそがミッションの浸透を促すスターバックスのOJTでした。
 最初にミッションへの共鳴があり、それに基づく行動指針である「グリーンエプロンブック」を手渡され、学びを深めることも大切です。それに加え、今やっていることとミッションがどのように繋がっているかを理解するためには、こうした親身なOJTこそが重要なのです。
 こうして初めて、パートナーはミッションを体得しながら能動的に行動することが出来るようになります。(123~124頁)

 理念浸透というテーマで扱われながらも、OJTによって職場で求められる行動を適切に行えるようになり、それを通じてミッションが腹落ちする様が見て取れる。その結果として、ミッションという企業が大事にする考え方に基づきながらも、自分自身が能動的に行動できるようになるという。

 「デキるOJT指導員」というものは、OJTにみんなを巻き込むのが上手い指導員だということです。(232頁)

 OJTを担当する役割をアサインされると、トレーニーに対する教育を自分自身が全てやらなければと抱え込んでしまいがちだろう。こうした心象は、新入社員が配属される部署の上司も同様に持ちがちだろう。しかし、OJTとは職場で多様な人材を巻き込みながら行うことが有効である、というのがここでの主張である。そのためには、『職場学習論』で詳述されているように、上司からは精神支援、上位者(教育担当)からは内省支援、同期・同僚からは業務支援、といったような役割を分担しながら教育を分有することが有効であろう。



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