OJTという概念について否定的に捉える向きもあることは理解している。曰く、人事部門が若手育成の責任を職場に一方的に押し付け、事前の意味づけや研修受講もないままに押し付けられたOJT担当者がトレイニーを放置し、それを以てOJTと称している。たしかにこのような現象があるとしたら嘆かわしいことである。しかし、日常業務の中において、また教育体系や昇進・昇格の一環としてOJTを位置づけ、OJTの担当者およびトレイニーの両者を育成している企業もまた、存在している。したがって、いたずらにOJTを過去のものとして否定する言説には違和感をおぼえていた。
本書ではOJTのコツやポイントが事例ベースで書かれている。もう少し概念的に学びたい場合には、著者による『「経験学習」入門』を紐解けば、相補的に理解を深めることが可能であろう。本書で紹介されている事例を一つひとつ咀嚼していけば、OJTの効果・効能を改めて考え直すことができるのではないだろうか。
まず、部下や後輩を教えることは、マネジャーのコア・スキルである育成力をアップさせることにつながることを意識しましょう。つまり、OJTに取り組むことは、部下や育成のためだけでなく、自分のマネジメント能力も向上させるという点を理解することが大切です。(21~22頁)
OJT担当を経験することが、将来、管理職として部下を育成することの基礎になる。したがって、トレーナー、トレーニーを育成するだけに留まらず、将来の管理職候補を潤沢にし、組織能力を高めることに繋がることを意識したいものだ。
育て上手なOJT指導者は、周囲の力を活用しています。業務への指導、振り返りのサポート、励ましほめる感情のケア。職場には多様な個性の持ち主がいて、得意な関与パターンがあるはずです。一人で抱え込まず、職場メンバーを巻き込む指導を行いましょう。(47頁)
OJTを制度として運用する際に留意したいのが、OJT担当者にOJTを一任してしまう風潮を創り出さないようにすることである。というのも、育成は、中原先生の著書でも紹介されている通り、部署全体で面として行うことが有効である。したがって、OJT担当者を周囲が支援できるしくみも含めてサポートを行う気配りが、企画には求められるだろう。
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