小説を読む効用の一つには、自分はここで描かれている社会や組織よりはまともなところにいると、現実を肯定することにあるのではないか。本書では、バブル崩壊後に不良債権の処理に汲々とし、総会屋との縁を切れずに苦慮する大手都銀の風景が描かれている。
過剰にデフォルメされているのだとは思う、というよりもそう信じたい。少なくとも、私がこのような企業に勤めたら数ヶ月ともたないだろうなと感じる。このような企業組織がかつて存在し得て、かついわゆるエリート層が大挙をなして働こうとしたことがにわかに信じがたい。
ただし、本書を読んで、現在の環境を自然と肯定的に捉え、しんどい場面でもまだ大丈夫だと思えるようになったことは間違いないようだ。
竹中は児玉から聞いた”ほめ殺し”にまつわる話を披瀝したくなったが、ビールと一緒にぐっと胸に呑み込んだ。(315頁)
小説の世界観に入り込めるのは、こうした人物の言動の描写が見事で、心情を言動に表してそれを文章になっているからであろう。
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